【栗】


 
 休日の昼下がり・・・何の目的も持てなかった俺は今日も!と栗原の部屋に転がり込んでいた。
何かの拍子に『休みの日に何をして過ごしているのか?』の問いになり、その時
「図書館で借りて来て本を読む。」
と言い切り、俺たちを驚嘆させたが・・・。
逆を返せば、ほとんど用事が無い場合、出掛ける事も無く必ず家にいると言うことだと気付いた俺は、きちんと掃除された部屋と食べたい物とその材料費さえ出せばブツブツ文句を言いつつ作って貰える快適さに味をしめ、何をするでもなく休日は栗原の部屋に入り浸るようになっていた。

そんな栗原が買い物から帰ってくるなり珍しい事に、喚き出した。
「あ〜〜〜〜〜〜もう、嫌だ!嫌だ!嫌だ!ヤだっっ!!」
語尾の辺りは幼児語紛いだ・・・声に釣られて玄関に背中を向けて寝っ転がっていた俺も流石に視線を投げると、こっちに背中を向けたまま台所の流し台に大きく腕を付いて肩をいからせ、荒い息を吐く栗原が見えた。
なんとなく怒りの原因が分かる気もするが、このまま放って置いても良い結果にならない事は充分に分かっていたので、ひと息つく事で諦めると立ち上がって栗の傍まで寄っていく。
そう、あくまで直接攻撃を喰らわない程度にだ。
「もしかして、また、貰った?」
「そう、そうだよ!!
 な?神田、俺が何した?栗原って名前だからってコレは何の冗談だ?」
そう言った奴の手には小ぶりのスーパーの袋。
そして中に入っていたのは・・・やっぱり『栗』だった。

食欲の、味覚の、実りの『秋』である。

 何故だか知らないが、今回に限ってかこの季節に入ってから栗原が貰う品は必ずと言って良いほど『栗』になっていた。
『芋』なんかに比べれば、そりゃ『栗』は高級品だ。
それは分かる、重々承知している!けれど・・・何度も何度も貰うと・・・要は度を越すと、そんな物有り難くも何とも無くなると言う見本のような展開だったのだ。
台所のシンクの水を張ったボールの中にも『栗』。
足元の更にシンクに置いてある物より一回り大きいボールにも『栗』。
ガスレンジの上に乗ったどんぶりにも『栗』と言う眩暈のする状況だった。
それももう『蒸かした栗』は勿論『栗ご飯』でさえ何度が食った後だった。
栗には中に虫がいる場合があるので、水に浸けて虫出しをしなきゃいけない、でも一度水に浸けてしまうと痛まないようにマメに水換えもしなきゃなら無いし・・・第一量が増えてくると必然的に置き場所の冷蔵庫のスペースが無くなる。
そうなると常温放置となるが、日持ちしないのだ。
虫を除けたとしても、皮を剥かなきゃならない、その上、『栗』と言う物は更に渋皮って言う面倒な物を何とかして取らなきゃいけないと言う、手間の掛かりようだったのだ。
貰った物だけに捨てることも悪くて出来ない。
そんな風に栗原が考えている事は、丸分かり。
そうなると喰うしかないが、俺たちももう限界だった・・・。
「神田・・・
 コレを一気に始末する方法を考えろ!!」

 そう、いつか栗原がそんなことを言い出す事は目に見えていた・・・。
栗原が貰った『栗』に振り回されている間、俺には面白がる余裕もあったし、このまま続くとどうなるんだろう?と単純に隊員たちとトトカルチョをするぐらいの隙間もあったってだけだ・・・でも、出来れば聞いて欲しくなかった!!!
「コレ・・・隊の奴に貰ったレシピ。
 なんでも一度気にキロ単位で消費出来るらしい!」
「何だよ!そんなモン持ってんなら早く出せ!!」
言い放った俺に嬉々として手が出された。
けれど、つい事実を認めるのがイヤで、その手を避けるようにFAX用紙を高く掲げてしまった。
「・・・けど・・・けどな・・・。」
「何!?」
目が据わってる・・・キレられるのも嫌だ・・・と怯んだ隙に用紙は持っていかれたが。
「ものっすげー面倒臭いんだって、それっっ!!」
「マジ?」
「・・・3晩越すって。」
「3晩・・・。」
持っていたFAXのレシピを掴み取り、読んで行く栗原の動きが固まっている。
「あいつの家周辺ではよく作る物らしい・・・ぞ。」
笑って誤魔化すように告げた言葉も沈黙の前では、ただ、ただ空しいだけ。
そして・・・長〜〜〜〜〜〜〜い沈黙の後、悪魔のようにに〜〜〜っこり笑った栗原が告げたのは・・・この一言。
「色々世話してるんだから、たまには返してくれるよな神田のダンナ。」
いつの間にか逃げられないように首に回った腕が充分恐ろしかった。
そしてそれが栗原宅、3晩お泊りコースが決定した瞬間。
慣れ無い包丁を持って、指ふやかしながら、ただひたすらに栗の皮を剥き、渋皮を傷付けないように叱責され、交代で煮る『栗』の火の番をすると言う、嫌な嫌な3日間だった。
まぁ、それでも最初にしては上手く出来たと二人で苦労を讃え合う事も忘れなかったが。

 そして更に・・・作ったは良いが食べ切れる訳が無い量の『栗』を抱えた俺達は、『蒸かした栗』や『栗ご飯』同様に『渋皮煮』も隊内に配り歩き・・・来年も同じ苦行を味わう事になるのを、司令室に遊びに来ていた鷹子ちゃんに指摘されるまで、一切、全く全然、気付きもしない大馬鹿者たちだった。

< END >

 すっごい短いけど突発で書いてしまいました(汗)。
思いっ切り「季節ネタ」。秋。新年書いて、次が秋ですよ!(滝汗)。
BBSに書かれた『ああ・・・・栗さんあなたを料理したいわぁ。』と言う望みは全く叶ってませんが、リハビリ程度でお許し下さい。
重曹使えば3日も掛からないでしょうが、まぁ昔ながらの作り方って事で(笑)。
全然、出来上がる欠片も見せない頃のお二人さんでした(笑)。
2006.10.06

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