【出来心】


 
「なぁ、なぁ、『初詣』行こうぜ、『初詣』!!」
「はぁ・・・節目の行事事だから行っても良いけど。何でそんなに意気込んでんのさ?」
そんな事を俺の相棒である神田が言い出したのは、正月も明け、三が日も過ぎ去って、あまつさえスクランブル明けで帰宅した夕飯の真っ最中・・・。
「だって、『初日の出』も見たいんだもんよぉ。」
「へ・・・?」
「だって年明けて初めて行く神社が『初詣』なんだから、初めて見る朝日が『初日の出』だって構やしねぇじゃねぇかよ。」
思わず、持っていた箸を取り落としそうになった俺に何の罪があるだろう・・・。
「神田・・・。」
「だって、このショーバイしてたら元旦当日にそんなもんみれるわけねーもん。ま、見れても稀だな。」
「ああ・・・まぁ・な・・・ぁ。」
何とか続いて言いそうになった“オノレは子供かっっ!!”という言葉を飲み込む。
家庭を持たない独身男である限り、盆正月に休みを割り振られる事自体が有り得ないのは年中無休の仕事についている限り、正論過ぎて逆らう事も出来ない。
「だから、なっ。行こ。」
少し考える素振りをしてやると、じっと真剣に俺の顔色を窺う神田が餌を待つ大型犬のようで笑えて来る。
「何処、行くつもりなんだよ。」
何とか噴出しそうな笑いを抑えて聞いてやると、盛大に尻尾を振って懐いて来た。
「行く場所はもう決めてあるんだ!明日早起きしようなっ!!」
「ま、“松の内”だし、お付き合いしますか・・・。」
そう言ってしまった自分を後悔したのは、正しく夜明け前に目覚めさせられ、ちゃっかりとこの為にアパートの住人から借りたであろうバイクを指し示されてから。
「な・・・何なんだよ?『初詣』ったら近所の寺でいいだろ。」 「そう、『初詣』はな!そうかもしんねーけど、『初日の出』は高いとこから見た方が気持ちイーに決まってんだろ!」
そうメットを押し付けられながら片手に握り拳を作られてしまった。

「で・・・なんで俺っちが運転手な訳よ。」
「だって、俺バイクの免許持ってねーもん。」
「だったら車借りりゃいーだろ。」
「借りられる時間があったら、バイクなんて引っ張り出して・・・それに久しぶりに栗原さんの華麗な運転見てーなっと。」
180に届かんやと言うような大の男に胸元で手を組み合わせて科を作られたって、嬉しくも何とも無いが・・・それを見た時点で、逆らう気力が一切合財無くなったのも否めない。
夜も明けぬこの時間から、幾ら二ー半(250cc)とは言っても住んでるアパート横で高らかな排気音を響かせる気にもなれず。
神田に言って、近くの車道まで押して行かせようとしたら進んでバイクのハンドルを握るので不思議がって尋ねたらそう言うオチが待っていた。
「ま・・・、急な話しだったし、旦那の行き当たりばったりはいつものこったからなぁっ。」
「そうそうっ。」
嫌味のつもりで言った台詞に笑顔とハートマークが付きそうな返事を返されて、腹を括る事にした。
「で、どっち向いて走んのよ?」
「え〜とな、こっち。」
「ふ〜ん、ま、ナビの言う事に従いますか。」
で・・・どうなったかと言うと想像通りに、散々迷った挙句に目的地の名前を神田から吐かせ、街灯の薄闇の中、何とか道路脇の案内看板を見ながらどうにかこうにかたどり着いたその場所は案の定、真っ暗だった。
「神田・・・急ぎ過ぎにも程があるだろ。って言うか、中に明かり無さそうだぞ。」
「うるせーな、日が出ちまったら意味ねーんだからこれぐらい暗くても良いじゃねぇか。」
ため息をついて見ても、全く気にしていていない手に、手を引っ張られて先を急ぐハメになる。
外灯の明かりがあった門前は兎も角、バイクを置いて歩き出した階段の最初は正しく闇だった。
新年の年賀が絶え間ない期間ならまだしも、いくら“松の内”ではあると言っても並んでいる石灯篭の幾つかは本来の目的も忘れ静かに沈黙を守っていた。
手探りのように続いている階段を手摺を頼りに上がって行くうちに闇が薄まり、何とかやって来たその場所でのお参りも後回しに欄干へ前に置いてあるベンチへと引きづられた。
神田の意図するところも分かるので黙ったまま、夜が明けていくのを待つ。
雲を紫に染めながら様々な色を表しながら太陽が昇っていく様を、ただただ二人無言のまま眺めていた。
「きれーだったな。」
視界に太陽を納めたまま、ぼんやりとしていると声と共に神田の顔が覗き込んできた。
「うっわ・・・。」
不意に訪れたアクシデントに対応しきれず、身体を引くと繋いだままで忘れていた手が自然と神田の身体をも引くことになった。
「おわっ。」
肩がぶつかり、動きが止まる。
それまで意識しなかった手をすぐに離せば良かったのにそんな気になれないまま、どうしていいかと視線を神田に泳がせてもどちらも答えは出ないようで・・・。
「明けたから、景色見ようぜ。
 ここすんごいんだぜ〜〜〜〜。」
そのままの手を引かれ欄干から見渡した先には海まで見える眺望の良さだった。
「へ〜〜〜〜〜〜。」
「なっ、なっ。」
「誰から教えて貰ったんだ?」
「元町内会長のジーちゃん。」
さもありなんと頷いていたら、繋いだままだった手を神田が自分のポケットに仕舞い込んだ。
「いいな、こーゆーの。時期外れだから誰もいないし。」
確かにもし人目があったならこんな状態は維持出来ない・・・。
それもそうだと笑ってしまった。
二人で立ったまま景色を眺めて、ウロウロと境内を探索した。
自動販売機で1本だけ缶コーヒーを買って飲んだりもした。
一通り見終わると気が済んだのか神田が回れ右と降り用の階段に向かいそうになった所を止めてやる。
「神田、『初日の出』はオッケーかも知らないけど、もう一個忘れてるぞ。」
「?」
「『初詣』。」
笑いながら、ポケットに入れられたままの手で引っ張ってやる。
「あ、そっか。」
「そうそう。」
そう言って神前に立ったものの、このままでは当然賽銭用の小銭も取り出せなきゃ、お参り自体が出来ない。
「しゃーないな、諦めるか。」
そう胸を張って言われては笑うしかなかった。
鈴を鳴らし、柏手を打って、神妙にお参りをして済むとまた新たに神田の方から右手をさし伸ばされる。
「気に入ったのか?」
「こんなこと滅多に無いし。」
笑って手を握ると一気に自分の方に向かって引いてやると、あっけなく神田の身体が胸元でたたらを踏む。
「なにっ・・・くっ。」
見上げて抗議しようとする顎に残った手を掛けて、唇を軽く重ねる。栗原と続ける気だったのか、栗だったのか神田の声はそのまま音になる事は無かった。
呆然とした神田を置いたまま、さっさと一人で階段を下り始める。
「神さ〜ん、いつまでもボーっとしてると置いてくよ〜〜〜。」
砂利を踏みしめる足音が近付いて来るのを感じながら、手を上げた。


「今年はぜってぇ俺ついてる!!!今年の始まりはすんげー良い事あったし。」
そう休み明けに力説している神田とそれを
「良かったですねー。」
と素直に同意している水沢と
「そんな事言って、浮かれて追突とかの当たり年は止めて下さいよ。」
と恐ろしいことをのたまってる西川。
毎年の事のような、初めてのような、うららかな昼下がり書類を手にしたまま神田の言葉を一切知らぬ振りを決め込んでる休み明けの自分であった。


< END >

 今年は既に遅刻です(汗)。
1月ネタを今書いてるトホホさ。
や・やる気だけは在るんで・・・いや、なんていうか中途半端だな、ヲイと思いつつ頭回らなかったので終了。
年始早々からバカップルでスマン(爆)。
2006.02.19

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