【桜宵】


  Illustration=楠菊太郎sama(『天然異端』)

 
 何の因果で男二人で、花見をする事になったのか?と言うと単なる宴会の場所取り、それもピンチヒッターだった。
両腕には酒類とおつまみが、パンパンに入ったスーパーの袋が2袋ずつ。足下には何十人が座る気なのかのブルーシート。頭上には満開の桜、桜、桜。
ぽかんと頭上を見上げたまま、立ち尽くしていると背後から、良く知っている声が聞こえて来た。
「辰巳〜。大丈夫か?荷物降ろせるか?」
言いながら近付いてくるのは、俺の上官様。優男で、ナビゲーターとしては天下一品で、怒らせると、とんでもなく恐い人。栗原宏美二尉。
言われるままに荷物を降ろしていると、デリバリーのピザやら仕出しのオードブルセットやらのレシートを渡された。
「これ、6時には届くように手配して来たからな。」
「はい。」
にこやかに笑いかけてくれるが、上官と言う名の圧力の為か。単なる第一印象の強烈さの為に、返事はどうしても短くなる。
クーラーボックスに日本酒とワインを数本を所狭しと入れて、ビールケースが届く場所を確保する。それらをやってしまうと、する事も無くなってしまう。
「さて、仕事は終わったな。開けるか?」
栗原さんは何処から出したのか、缶ビールを1本、差し出して来た。
「これ?」
「宴会費とは別。おごりだから諦めて飲め。」
自身の座っている、隣のスペースを薦められて、逃げる事も出来ずに腰を降ろす。
「こうやって飲んでれば、徐々に集まってくるんだ、これが。」
「毎年ですか?」
「毎年です。」
「それで、あんなに神田二尉、やりたがったんですね。」
「そう、自分の好みで酒を仕入れて、好きなつまみを買い込んで、誰よりも早く宴会を始める。」
「凄いっすね。」
「凄いんすよ。」
栗原さんは笑みを浮かべたまま、思いっきり体を後ろに伸ばした体勢で、シートに倒れた。
「辰巳。そんなに俺は恐いか?」
「え!?、ええ、あの・・・。」
目を白黒させて、返答に困る。恐ろしくて、振り返れない。
「イマイチだぞ成績。あ〜んなに最初、調子良かったのにな。」
声の調子で、意地悪そうな笑みを浮かべているで有ろう事はありありと分かった。戦闘機を車よりカッコイイ物だとナメて掛かっていた事は反省してるんですって。
「ま、昔は昔。それ言っちゃ俺だって百里来る前は無茶苦茶だったしな。」
「滅茶苦茶だったんすか?」
思わず振り返ってしまう。
「お前にやったような事を平気でやって。基地に帰れたとしても、最後にゃ殴り合いの喧嘩だ。」
絶句しそうになりつつも、一縷の希望を持って言葉を繋いだ。
「・・・神田さんに会ってそこが治ったんすね。」
栗原さんは困ったようにぽりぽりと額を書くと、のんびりと言う。
「い〜や、今も結構やってる事は変わらないんだけど、神田の方が前に押し出されて目立たないだけ。」
「・・・神田さんって・・・。」
もしかして、哀れな人?と考えた途端、口が開いたままになりそうな答えが返って来た。
「あいつはナビを再起不能にする名人。」
「・・・・・・・。」
今度こそ間違いなく、絶句だった。百里きっての「神栗コンビ」が、実はトラブルメーカーの二人組?。ところが栗原さんはそんな事には気付かないのか、物凄く楽しそうにビールを口に運んでは言葉を続けた。
「司令が思ったわけさ、馬鹿二人を組ませたら、どっちか大人しくなるだろうってな。ところが大外れで、二人とも馬鹿に拍車が掛かっただけだったんだよ。」
手を叩かん勢いで、笑い続ける。栗原さんって、笑い上戸かもしれない・・・と思い始めた頃、噂の主も含めた集団がやって来た。
先頭を走って来たのは、神田さん。
「ご苦労辰巳〜!って栗!?」
自分の隣で缶ビールを5本ぐらい積み上げた栗原さんを見つけて、驚いている。そりゃ驚くだろう。俺も驚いた、いつの間にこんなに飲んでたんだ。
「神田だ〜。」
言ったまま、また笑う。
「凄え、栗が飲んでるよ。何したんだひよこちゃん。」
その物言いが気に喰わなくて、つい言ってしまう。
「ええ、神田さんがいかにして、栗原さんと言う人と出会ったかですね。」
「ロクな話して無いな。」
言って、栗原さんに自分のコートを被せると、更にその隣に座る。何処からか、缶ビールが現れて、神田さんの手に握られていた。
「辰巳なんてマシだぞ。俺の初対面なんてファントムのキャノピー全面、黒テープで塞がれたからな。」
「やった、やった!」
「・・・それは、恐過ぎですね。」
栗原さんはほとんど意味無い笑いをしているので、喋っているのは神田さんに向かって。その事にも気にする風も無い。栗原さんもそうだったけれど、神田さんもお互いの事ボロボロに言いながらも楽しそうだ。自分も酔いが回ったのかな?と思いつつ、神田さんに聞いてみる。
「女房役ってどんなもんですか〜?」
「ん〜?こいつとなら死んでも良いかと思う相手かな。死ぬ気無いけど。」
二人して笑う。
「辰巳〜!!ビールと料理届いたぞ〜、何処に置くんだ〜。」
誰かに呼ばれて、置き場所を指示しに立ち上がる。
「辰巳。俺等も帰るわ。やっこさん、もう起きないから。」
そう言うと神田さんは、さっさと栗原さんを背に乗せている。立ち上がった姿を見て他のメンバーが声を掛けるが、背中に乗った栗原さんがよほどインパクトが有ったのか、皆割り合い簡単な挨拶で離してくれる。中にはしみじみと栗原さんの寝顔を覗き込んでる奴もいるけれど。
ビールを置いて、料理を列べたら仕事は終わり。後は片付け組に任せる事にする。ふと顔を上げたら、人波に押された神田さんが目の前に立っていた。
「まだいたんですか?」
「言い忘れた事あってな、反省済んだら後ろに乗ってる奴なんか忘れて飛んどけ。」
どちらも言いたい事は同じだったらしい。成績の悪い俺を見兼ねたのね。居たたまれない話題を変えようと口を開いた。
「相棒って、俺にもいるんですかね。」
「何処かにはいるだろうさ。」
神田さんはそう言うと、目線だけで「なんか喰いたい」と語っていたので、置いてあった料理の中から唐揚げを拾い、口の中に放り込んだ。
ふと視線を感じて、そちらに目を向けると眠っていると思っていた栗原さんまでもが起きていて、それも口を開けている。
神田さんにもう一つ唐揚げを放り込みつつ、栗原さんの口にも放り込んでやった。勿論神田さんの目を霞めてだ。
込み上がる笑いを堪えていると、何を考えたか神田さんがニヤリと笑う。
「ま、相棒は運と縁。もしかしたら、辰美なんかはイーグルに乗るハメになるかも知れんが俺は知らん。」
笑って足取りも軽く、立ち去って行く。背中に栗原さん背負ってままで凄い・・・なんて考えて、何を言われたかの理解に少々間が開いた。・・・?。
「・・・あれは単座じゃ無いっすかーーー!」
叫んだ頃には本人は遠く。桜の宵闇にまぎれて、自分の叫んだ声だけが空しく響く。
明日こそ及第点を貰ってみせると、心に誓いつつ、優男の元滅茶苦茶の教官様を見返してやろうとビールを開けた。

<END>


〜オマケ〜
「お前起きてるだろ。」
返る声は無いが、背中で何かが動いてる感覚が有る。
「・・・いいじゃん。・・・たまには背負ってくれても。」
口に何か入ってるなこいつ。と思いつつも、深くは追求する気も起きない。栗が人前で酒飲んでる姿が珍しかったので、連れて帰る事しか頭に浮かばなかった。
「神田、見て。」
「・・・桜だ。」
いつも通る道だと言うのに、いつもは気が付かないほど目立たなかった木が、公園の奥で、ぽつりとしかし、これまでに無いぐらい存在を示して、咲き誇っていた。
どちらが言うまでも無く、足がそちらに向かう。
「凄いな・・・。」
「ああ。」
さっきの場所より暖かい場所なのか、近付いてみると根元には敷き詰められたように、花びらが落ちている。けれど、それだけの花を散らしながらも、桜自体に何の遜色も与えてはいなかった。桜を越して見上げれば月。ふと視線に気付いて、栗原を見ようとしたら、頬に口づけられた。
「感謝の印。」
驚いたけれど、気にせずにねだる。どうせ桜と月しか見ていない。
「もう一回。」
望み通りの場所に唇が降りて来る。
「・・・着いたら、起こして。」
小さなあくびを一つついて、身を委ねて来た。家へと向かう、少し重くなった背中に、栗原の寝息を聞きながら。

< END >

 内容については、ふ・普通?(やーーー石投げないでーー・泣)。
あれ上げるか?って身内に言われた。でもここ私の所だし、書いてるの私だし、まぁいいじゃないの(笑)。
そう言えば、これで辰巳というキャラが皆様に認識され、その後立派なヘタレキャラになった事が懐かしい思い出ですな(愛すべき苛められる存在)。
私のせいじゃないぞ〜〜〜〜〜って事で(笑)。





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