【風邪】


 
 珍しく栗が風邪を引いた。
これと言った不摂生も無しでだ。
「さすが、ウチのゴリラを倒した風邪だ。俺が太刀打ちできるわけ無かった。」
そう、栗本人には不備は無かったけれど、俺が持ち込んだ風邪の為。寝込むハメに陥ったと言う事だ。
「神田ー。熱何度だった?」
しっかりと肩まで布団をかぶった状態で、聞いてくるがそれがもう何と言うか・・・である。
熱で顔は上気して、ほんのり桜色だわ。
いつもの毒舌はなりを潜めてるわで、はっきり言ってしまえば可愛いんで有る。
しかし相手は病人。ここで、手を出したと有っちゃ、人以下で有る。
なるべく視線を合わさないようにして、明るく喋ってみる。
「37度台まで、来たぞ。後一息だなっ。何か喰いたいもん有るか?」
「・・・林檎かなあ。神田?」
何か言いた気な視線に気付かなかったふうで林檎を向きに台所に立った。
果物や水分補給の為のペットボトル、元はと言えば俺の為に栗が用意していたものだったので、何があるかは多分俺より栗の方が分かってるだろう。
めったにやらない林檎の皮剥きをなんとか終了させ、栗の隣に座り込んだ。
「ほれ、あ〜ん」
「え?一人で食べれ・・・」
栗は目線を泳がした後、黙って口を開けた。
「旨い?」
だんだん林檎が口の中から無くなるとともに、栗の顔が布団の中に沈んで行った。

「照れるぞ、コレ。」
「そう?」
普通の顔を作ろうとするが、思わず口元が笑ってしまう。
「もういっこ。」
請求されるまま、口の中に小さく切った林檎を放り込んでやろうとしたら、逆に腕をとられ林檎の汁がついた指先を舐め上げられた。
「恥ずかしいだろ」
「・・・馬鹿ヤロ・・・」
にんまりと笑われて、別のスイッチが入った気がする。人がせっかく理性働かしてたら、コレは無いだろ。
「する?」
「お、おまえ病人だぞ。」
「風邪の治し方って、栄養のあるもの食べて、暖かくして、汗かけばいいんだろ。約束もあるし。」
俺が寝込んでいた時に、元気になったらしたいとゴネた事だ・・・。
アレはあくまでも、どちらも元気になった時じゃ無いのか?普通。とか色々考えている間にも、うまうまと栗にのせられていたりする。

 熱はどうなったかって?見事下がって、次の日2人揃って出勤したら、風邪の引きはじめらしい司令が声を掛けて来た。
「お前ら、どうやったんだ?今年の風邪はタチが悪いそうだぞ? 休み3日で出て来たのは、お前ら2人だけだ。何か特効薬でもあるのか?」
あるなら、今すぐ出せと言わんばかりな司令を置いて、部屋を飛び出す俺達だった。
「き・基礎体力の差じゃ無いですか?」

< END >

 某所の「裏」に長い間置いてありました小品。
実際この作品が、私の『ファントム無頼』初めで御座いました(マジで)。
この頃の私の書く物は甘かったのね(汗)って言う事で(今もだろって突込みが・笑)。
ここからなんかヒューズがぶっ飛んで今に至る!(苦笑)。
そう言う意味では記念品かな(爆)。
2002







【糸電話】


 
 珍しく神田が休日だと言うのに、近所の子供と遊ぶのを切り上げて、日の有るうちに帰って来ていたらしい。
いつもの如く帰って来る事は無いだろうと踏んで、一人で買い物に行ったと言うのに、とんだロスだった。
「何してるの?神さん」
帰って来た事も気付かぬふうに、傾きかけたお日さまの方を向いて一生懸命、何かを作っているようだった。
以前にも友達連中と(言っておくが平均10歳以下の友達だ)、必死になってラジコンの飛行機を組み立てていた事もあるので、今回もそんなものだろうと思っていたら。
そこに見えたのはうづ高く積まれた紙コップとうねうねと広がっている糸だった。
「何だ?それ?」
余りの手の掛からない物の為、思わず声が大きくなる。
「見てわかんねえ?」
「分かるけどさ・・・」
聞いている間にも、手はちまちまと動いている。
そう、神田が作っていた物は、糸電話だった。
「よっしゃあ、10本完成!」
いったい何人で遊ぶつもりなんだと思ったことを見破られたのか、続けざまに口が動いてる。
「長さに差を付けて遊ぶから、最低このぐらいの数はいるんだよ。それに本当はさーこの底の所はぶーぶー紙の方が良いんだけどよ。」
「薬包紙の事か?」
「そうそう、でもアレじゃ強度がな〜。」
なんて言いつつも、体は部屋の外に向かって出て行こうとしている。何事かと思ったら、束の中から一つ紙コップが選り分けられて俺の前に置いてあった。
「お〜い栗〜。目の前のセロテープの芯がついてる奴、放ってくれよ〜。」
階下で、叫ぶ声がする。窓を開けて行ったのは、この為だったらしい。
「重ねてか?」
意図は見えているが、意地悪くも言ってみたりする。
「ばっか!一個はお前が耳に当てるに決まってるだろう!!」
いつから参加する事になったのやらと思いつつ、紙コップを階下の神田に向かって放る。
セロテープの芯を重りにして、紙コップは見事、神田の手の中に受け止められた。
見ていると、早速「もしもし」と話し掛け初めた。
大の男2人が揃って、糸電話・・・その異様な光景に何の疑問も生じて無いようなゴリラが一匹。
そのまま捨てておこうかとも思ったけれど、そのままじゃ、後で更にゴネてうるさい事になりそうだったので、「毒を喰わなば、皿まで」の心境でやることにした。
「もしも〜し、栗さ〜ん。聞こえますか〜?」
「はいはい、聞こえてますよ。」
おざなりに返事をすると、糸電話越しじゃ無い声で喚かれた。
「それは、見えてるって言うの!!もっと下がって糸張れよ! 2か所ぐらいまでなら物にぶつかっても聞こえるから」
素直に指示に従うと、部屋の中央辺りに座ってしゃべれた。
「もしもし?聞こえるか?」
「聞こえる!神さんどうやってんの?」
姿の見えないやり取りが、心を浮き立たせる。
「下の植え込みに座り込んでます。」
「こっちはねえ、部屋のまん中で座ってる。」
「結構な長さだな。何か楽しいだろ?」
「うん。」
苦痛じゃ無い沈黙に続いて、間抜けな声が聞こえて来た。
「先生〜。僕の〜友達は飛行機バカが多いんですがどうしてでしょう?」
『子供電話相談室』なのね。せっかくだから答えてやる事にした。
「それはね〜『類は友を呼ぶ』と言うんだよ。」
「先生〜。僕の相棒は鬼のようなフライトプラン組んで僕を虐めるんですが、単なる意地悪ですか?」
「それは『愛のムチ』って言うんじゃ無いかなあ。君が出来なきゃ、その相棒さんも落っこちちゃうんじゃ無い?」
「そうですね!!」
いや、俺にもスティックあるから、普通落ちないんだけどさ。
・・・残燃料ギリギリまで飛ばしてるから、もしかしてヤバいのか?
「先生。僕の恋人はいくら俺が好きだの、愛してるだ言っても答えてくれないんですけど。」
「・・・・・・・。」
「だっれも聞いてませんよ〜。おわっ!?」
それを最後に糸電話の手ごたえが無くなった。すると即、神田がバタバタと部屋に戻って来た。
気付いてみれば、周りは真っ暗で部屋の明かりがついていないのは、ほとんど無い有り様だった。
「べっくりした〜。下のじいさん夫婦が帰って来て、突然電気つけたもんだから。」
それで、と合点がいく。その間にも糸電話を回収して窓を閉め、カーテンを引く。
電気をつけようとしたら、その手を取られた。
「先生。続きは?」
「先生?誰ですかね、それは」
人でなしと思えば、思え!そんなこっぱずかしい事言えるか馬鹿。
思いっきり、電気に手をかけて引いた。ひろがる眩しさに目をすがめた神田が一人。
「言葉なんか欲しがってどうすんの?」
「たまには聞きたいんだってーの〜〜〜〜。」
・・・だだっ子だ。ガタイばっかいい子供。まあ、俺には似合いか・・・。
「神田、神田。」
手でおいでおいでをして招き寄せ、耳もとに囁いてやる。
人間の顔がここまで情けなくなるのかと、ちょっと恐い気もするが、まあ、いいか。
「焼そば買ってきてるから晩御飯作ってね〜。後ろで見てるから」
たまには、こうゆう事も有りと言う事で。

< END >

 同じく存在場所も一緒でした(笑)。
な〜んか今更ですが、この人達出来上がってくれちゃってて、もー笑うしかない!!
もっとシュチュエーション的にエロになる可能性をかなり孕んでましたが、この頃の私には書けなかったと言う事で(指摘されて気付くぐらい鈍かった・爆)。
2002

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送