【お正月手前】



栗が俺を放っといて、何か買い物をしてきた。
「だって、誘おうと思ったらお前既に部屋にいなかったんだもん。」
とは、帰ってきた奴の第一声。
デパートの紙袋の中には、きちんと包装された箱。
食料品とかの類じゃないらしい。
コートの下にはラフなセーターにマフラー、いつも思う事だけどこいつはセンスが良い。
以前聞いた事によると多少値段が張っても気に入ったモノには金を出すらしい。その方が大事にするし、良い物の方が長持ちすると言う事だった。
それに対して、ジーパンに長袖シャツ、その上に半纏を被ったままコタツで丸まっている俺とはえらい差だ。
「何買ってきたんだ?」
外から帰ってきた奴の為に、コタツの定位置にお茶を置いてやる。
「開けて見なよ。」
「良いのか?」
包装紙をバリバリと開けてみれば、現れて来たのは「屠蘇器」。
「結構種類があって、万単位のモンも有れば五千円までで買えるのもあってびっくりした。」
「へ〜〜。」
話ながらも、箱から一つ一つの商品を取り出してゆく。
楕円のお盆に塗りの銚子、杯台に大中小の杯。全てに鶴の絵柄が金で描き添えられていて華やかだった。
「どう?神さんきっと量がいると思って銚子を結構大きめのタイプにしたんだ。」
「でも、お前これ・・・。」
「何?」
「結構しただろ。」
コタツに座り込んで、にこりと笑う。
「さあ?」
全く、口を割る気が無いらしい。 栗が取り出したまま散らばった器を綺麗に写真通りに飾り付ける。
「でも、そう思うならこれに合うお酒とお餅なんかの正月用の食料品買ってきなよ。」
「ああ、勿論。」
コタツの天板に二人で顎を乗せたまま、綺麗な新しい器を見る。
二人で暮らし出して、結構色々な物を買い込んだ。
一番多く買ったと思うのが、こういう時期物だ。
一人では味気なかったからと買わなかったと言う栗に対して、ツリーや飾りも俺が強引に買い込んでアパートに持ち帰った。
それを覚えていたのか、今度は栗自身がお正月用品。

良いモノを買って長持ちさせる癖のある栗原に、口に出して言う気のない言葉を黙って呟く。
「二人で使っていこう、来年も再来年も。」
立ち上がった栗原が俺の視線に気付いて、振り返ったので、誤魔化すように極上の笑顔を返して、言葉を告げる。
「栗ちゃ〜ん、今日のご飯何?」
「“肉じゃが”。」
エプロンに袖を通して、冷蔵庫を物色しながらそう言った。
「わぅ。」
「好き?」
何だか微妙に人の悪い笑顔。そんなモノに懲りてはいられないので、素直に告げる。
「勿論です。」
「そう、良かった。“好きこそモノの上手なれ”ってね。見ててやるから、自分で作れな。」
バサリともうひとつのエプロンが頭から降ってくる。
「え!?」
「自分の事も自分で出来ない、粗大ゴミ亭主はいらない訳よ。」
いつものように繰り返される日常に。この日常がずっと続けばいいと思いながら。

< END >

 2003.01『空ノ魚』提出物。終わりを弄った。
弄りだしたら止まらんがな・・・(汗)。まだ上げる気無いから良いかー(苦笑)。このまま上げとくか。
2003.2.12









【節分】



「あ〜さむさむさむさむっ。」
カンカンと階段を上がる音と共に、神田の声が台所の窓越しに近づいてくる。
「お使い終了〜。」
そう言いながら、ドアを開け、持っていた荷物入りのビニール袋を差し出してきたのが音で解る。
「ほい、お疲れさん。」
そう言って、振り返らないままそのビニールを受け取ろうとしたら、何かが手にチクリと刺さった。
慌てて、振り返って見るとビニール袋の中には『柊』。ビニール越しに棘が刺さったらしかった。
「どーしたんだ、これ?」
「あ?刺さった?貰ったんだよ、商店街で今日『節分』だからって。」
「へー。」
ビニール袋から買って来て貰った酒と結構しっかりとした枝振りの『柊』を抜き取り、手近のコップに水を入れて差し入れた。
「でも神田、『柊』だけ有っても『門守り』にはなんないって知ってた?」
話しかけると、目の端にさっさとジャケットを脱ぎ捨て、定番の半纏を着込んでコタツに足突っ込んでる神田が目に入る。
「へー。でも『門守り』って何だ?」
そう言えば、去年も豆の袋の説明書き読んでた男にそんな時期の行事に詳しい訳無かったかと一人ごちる。
更に最低だったのは、年の数だけ食べるべきの煎り豆を一人で一袋喰いきった神田が、ヤケになって次の日に食べる分の納豆を窓の外に撒き・・・いや、最後には俺も混ざったから同罪っちゃ、同罪なんだが。
階下の住人からお小言を喰って、2月のくそ寒い休みの日に、二人で窓の掃除をした事は記憶に新しい。
と、ふとガサガサというビニールを鳴らす音に気が付いて顔を上げると。
「喰うな〜〜〜〜〜!!」
またも神田が去年と変わらず、俺が買ってきて置いた豆を喰おうとしているのを見て、思わず声が出た。
その声に動きの止まった神田が、ニヤリと笑った。
「く〜り〜。俺だって学習機能は付いてんだぜー。」
そう言うと、開けて食べている豆とは別にもう一袋。新品の豆の袋を頭上高く差し上げた。
「お〜凄いぞ、神田。」
素直に褒めて拍手何かしてしまう。そうすると何故か、神田はにこにこ顔のまま玄関に向かって歩いて行く。ドアを開け、何故かもうひとつビニールを無言で差し出して来た。幾ら寒いとはいえ、外に買ったモノを置いていたのか?と不思議そうにその手元を見ていると・・・。
「でさ、栗。この魚何に使うか知ってる?」
・・・絶句・・・。
「あ、アホかお前は!!
 いくら寒いからって、生魚を外に置くなーーー!!」
喋りながら神田の頭を思わず一発張った俺を、一体誰が責められようか。
その間も神田はぶちぶちと床に置いてた訳じゃないとか何とか言っていたが、そう言う問題でもない事の方に気付いてくれと願う、俺の望みはそんなに無理な事じゃないと思う。
「お使いだって言ったら、『節分』だから買って行けって魚屋のおっちゃんに言われてさぁ。酒屋行ったら、『鰯』持ってんならって『柊』渡されるし・・・。」
お前の歩いて帰ってきたルートが目に見えるようだと思いつつ。
「で、今日は自分が肉喰いたいって、俺に駄々こねた癖に『焼肉』するっておっちゃん達には、言えなかった訳だ。」
「・・・うん。」
「で、今から俺に『鰯』調理しろって?」
目の前でしおしおと項垂れる神田を見ていたら、俺もそれ以上は言う気もなくなって。
「晩飯喰う時間は、遅くなるからな!腹が鳴っても文句言うなよ。料理当番交代してやる!」
「うんっっ!!」
途端に現金な笑顔。
「栗〜〜〜っ。」
「抱きつくな、作業が出来ん!!」
背後から抱え付かれて、手に持った包丁が浮く。左手でしっしっと手を振ると、流石に右手に持った包丁に気付いたらしく、一歩下がった。
取り敢えず、『鰯』の頭を落とすと、神田に『柊』のしっかりした枝に『鰯』の目玉の部分を突き刺したモノを手渡す。
「ほい!戸の横にでも紐使って括ってこい。」
「何だ!?これ?」
「これが『門守り』なの。来年までにもう一段階学習機能働かしといてね。神さん。」
ふ〜んとな珍妙な顔を浮かべつつ、素直に紐を持って外に出ていく。
先月は餅だ!おせちだと五月蠅かったが、今月は今月でこれ。
何だかこのままじゃ毎月の行事をチェックする事になるのかも・・・と思いつつ、それもまた楽しみと無理矢理、開き直る事にした。
神田と暮らしていく限りこのテの騒動が無くなるはずもない。

 しかし、いきなり『鰯』持って帰って、言い出せなかったらどうする気だったのかと考えて、次の日に凍っている『鰯』見て喧嘩か、近所の猫の餌食になって跡形も無いかと想像して、ちゃんと調理出来るだけマシかと自分を慰める事にした。

< END >

 2003.02『空ノ魚』提出物。再挑戦品(汗)。
こんな感じで、終わらせてみました。
2003.2.8

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