【ジューン・ブライド】



 いつから、誰が言い始めたか分からないけれど、“6月の花嫁”は幸せになれる。
俺だってそれぐらい聞いた事はある。
 神田に結婚を止めて欲しがっていた彼女は、6月の今日、誰かの花嫁になる。
愛した女の泣き顔を見るのが嫌だと言った男は、愛した女の腕を自ら離した。
愛したと告げて奪う男と、愛しているからと去る男。
・・・どちらが女にとって幸せなのか?

「さって、帰るか!」
明るく言い放つ神田の声で現実に引き戻される。
礼服まで人に着せて置いて、何をさせるかと思えば突然にファントムに詰め込まれ、あっと言う間に空へと連れてこられた。
良いも悪いも無い、何てったって押し込まれたのは運転席だ。
いつの間にか誰に作って貰ったやらのフライトプランまで渡されて、挙げ句「花束」を落とすから計算しろと来たモノだ・・・。
フライトスーツも着ていないもんだから、余り上空を飛ぶことは出来ないし、大体ファントム自体無断借用でここまで来ているんだろうから帰ったら確実に始末書だ・・・。
今月入って何枚目だ?そう思うだけで、目眩がする。
自分もいい加減無茶ばかりして来たと思うし、神田の突飛な行動にも慣れて来たとは思ったけれど、今回は格別だ。
俺に礼服を持ってないかと聞いてきた時には、サイズが合うわけ無いだろうとにべもなく言ったら、一人で行きたくないと本音を零された。
情け心を出して二人で官舎の隊員達に聞いて二人分の礼服まで調達したと言うのに。
それが当日ファントムで!何て誰が想像が付く!!

 そうは思いながら、彼女を振ってから数日荒れまくりやがって、他の隊員達も誘って繁華街に繰り出したまでは良かったが。
踊る、絡む、くだを巻くと3拍子揃った挙げ句、最後には道路で大の字になって大イビキだ。
見てるこっち側も、いつものように一方的に振られたなら兎も角。
何の間違いか神田の方が縋ってきた彼女を振った状態なのでうかつに慰める事も出来ずに、見守ってやるしかない状態で。
そう言う気持ちはみんな同じらしく、傍観を決め込んでいたら・・・最後にはこの俺が駅まではおろか基地まで背負って行くハメになった。 
他の奴らは巻き添えになっちゃ可哀想なので先に帰した。
但し、基地に着いたら、車で迎えに来てくれる旨をきっちり約束させてだ。
そのまま引きずっていたらバスの時間はおろか、駅にだって辿り着けなかっただろう事は目に見えていたので。

 列車に乗った時点でバスに間に合わない事は分かっていたが・・・。
元々人家なんか疎らな上に、こうまで見事に人っ子一人通らない暗い道を歩いていたら、情けなさに膝から力が抜けそうになる。
酔っぱらい相手に、まともな事を言ってもしょうがないが、愚痴る自分を誰が責められる。
「なー神田、起きねぇの?」
「重いんだよ、馬鹿!喰い過ぎの上に飲み過ぎなんだよ!!」
訓練以外でこんなに重い物を長距離運ぶ事になるとは・・・、そう思いついて。
以前俺に関わってきた奴等がこの状況を見たら、間違いなく腰を抜かす事実だなと思ったら笑えてきた。
「なーに一人で笑ってんだよ、気色悪。」
急に掛けられた声にビックリした事もあったが、そのまま声を出した本人を支えていた手をつい離してしまった。
「おわっ」
と言う声を残して、背中が軽くなる。
「いってー、ケツ打った。」
アスファルトの道に尻餅を付いた格好で座り込んだままの神田に合わせるようにしゃがみ込んだ。
「神田。ここは何処だ?」
ニッコリ笑って告げてやると、キョロキョロと周りを見回したかと思うと
「お世話掛けてます。」
とぺこりとお辞儀をしてきた。
気が付いたのか!と喜びもつかの間・・・行動から察するに相変わらず酔いは続いているらしかった。
「あーれー動けねぇや、俺。」
そう言ったと思ったらへらへらと笑っている神田を見て、一気に脱力感に襲われる。
ただ単に一瞬、目が覚めただけだ・・・。
腕を引いて起き上がらそうとしてみても、腰は一向に浮き上がる事がない。
「神田・・・こっちこい。」
諦めて、背中を向けてしゃがんでやると腕が首に巻き付いてきたので、力任せに背中に引っ張り上げた。
何とか元の状態のように背負う事が出来たのは上出来だった。
しかし、足腰立たないモノの頭の方は多少覚醒しているらしく、無言の土嚢を背負っているよりは、喋れる相手がいると言う事は基地までの距離を短く感じさせる効果も十分あって。
「悪いな〜栗〜。」
本当に悪いと思っているのかいないのか分からないイントネーションの声が、小さく耳に聞こえてきた。
確かにここ数日の乱れっぷりは、筆舌にしがたく・・・。
「そんなに後悔するのなら、嫁さんになれって言ってやりゃあ、良かったのに。」
神田が彼女を振ったその時に言った台詞を繰り返した。
「ダメなんだって!・・・笑って、見送られたって、その後泣いてると思ったら嫌じゃないか。可哀想になるだろ?」
「自分の気持ち次第何じゃないの?“愛とは奪うモノ”って説もある事だし。」
「俺そーゆうのダメみたいだわ・・・。今回で思い知った。」
“お前飛ぶの止められる?”と聞かれ、“無理だな。”と答える。
「そうだろ、そうだろー!!」
同意が返ってきた事を嬉しがるように言葉が続く。
バシバシ背中を叩かれるおまけ付きだ。酔っぱらいめ。
「・・・俺は飛ぶのを止めれられ無いし、飛ぶ事を止めなけりゃずーっとあいつは泣いたままなんだよ。」
酔っぱらいの巻き舌で、けれどしおしおと小さくなる声に力付けるように、話を変えてやる。
「じゃあ、きっとお前の相手はどっか別にいるんだよ。もっとお前に合う、“じゃ頑張って飛んできてねー。”とか笑って送り出してくれるようなさ。」
「そう?いるかな?」
「どっかにはな。」
「どっかかー。」
へらへらと笑いそうに上機嫌になった神田を背負い直そうと、腕に力を入れたら、前から来た車のテールランプが俺達の姿を見付けて、思いっ切り光った。
「大丈夫ですかー栗原さんっっ。」
中から、言いつけ通りに車を調達して来た彼等に感謝しつつ、背中に背負っていた神田を渡す。
そしてシートに座ったら、限界が来た。
思ったよりも、男一人分の重みは身に応えたらしく、身体が軋んだ。
百里に戻って正気に返ったら、女の事なんか思い出せないくらいのぐうの音も出ないプランを組んで復讐してやろうと心に決め。
後部座席に放り込まれた俺達は、基地までの短いドライブに身を任せた。

 次の日には、休みだった事もあり神田は二日酔いの頭抱えてベットで転がっていたけれど、背負われて帰った事実は抗いようがなく。
朝っぱらから謝ってきたので、良しとする事にした。
何か朝食を食べに行った神田に周囲のみんなが
「昨日、凄かったですねー。」
「栗原さんには当分頭上がりませんね。」
とか言われまくって帰ってきたらしい、滅茶苦茶凹んだ男に追い討ちを掛けるべく、ニヤリと笑ってやったらビビリまくっていた。
それでも、その派手な二日酔い状態から抜け出すに伴って、彼女の件は落ち着いてきたようだったので、それはそれで良しとしたんだけれど・・・。

普通やるか?
ファントムで結婚祝いなんて・・・。
神田が今回の件で自分が“奪う男”になるのは無理だと言ったが、じゃあ敢えて言うならお前は“与える男”なんだろうよとも思ったが、
「こんな愛はありがた迷惑じゃないのか?」
と口に出しそうになったが、何とか飲み込んだ。
やってる本人が上機嫌な事ともう関わり合う事がないだろう二人に何を言ったって無駄だろう。
しかし、彼女振られてラッキーだったかもよ・・・俺なら退くね。
そんな事を考えつつも、・・・どちらが女にとって幸せなのか?
性懲りもなく浮かんでくる考え。
その問いは相変わらずあるモノの。そんなの結局、当の本人達にしか分からない。

「栗ー、聞いてるー?このままどっか行くかー?」
返事の返ってこない事に痺れを切らしたのか神田からの何度目かの呼び掛け。
「ばーか、帰るぞ。寄り道する程燃料入ってねーじゃねーか。」
返事を返してやるとやっとおとなしくなった。
「じゃ、帰るべー。頑張れよ運転手。」
そう言い放たれて、いきなり詰め込んだ癖にとも思ったが。
それよりも、やはり見えない結果というのは気になるモノで、ぼそりと今放り出した花束の行方を口にした。
「・・・ちゃんと落ちたかな?」
「お前ちゃんと計算したんだろ!?」
「そりゃあな。俺の計算だぞ、失敗は有り得ない!けど、何たってファントムから花束落とすなんて離れ業した事無いからな?」
既に遙か彼方に跳び去ったしまった先を、見えもしないのに振り返る。
「まぁ、この機体が挨拶って事で。」
開き直ったインスタントナビが何かほざいているのを聞きながら、帰ってまた飲みに行くとか言い出したら、やけ酒の飲み屋巡りにでもまた付き合ってやるかと腹を括る。
背負って基地まで帰るのだけは、ゴメンだけどな。


< END >

 6月終了〜〜〜〜〜!!!(嬉)。やっと終わった(涙)。
珍しくもててる神田(爆)。そこにポイント置くなってー感じで(笑)。
何か、見事なぐらいに、花束をどーやって落としたかという記述が抜けてますが、そこはそれモゴモゴ・・・(汗)。分かるかってんだー!!でもほら、悪戯も基地全体上げてだから、やろうと思えばやれるでしょう!ココなら!!(パラシュートにHAPPY BIRHDAYって書いちゃう所だもん)。
やっぱりシステムに上げるまでに月末終わっちゃいました〜。
月末近辺に見に来ましょう皆様。そんじゃまた来(今)月(まだ、やんのかよ・苦笑)。
2003.07.01

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