【夏日】



 ジリジリと照りつける太陽に、光りの強さに彩度を増したような周辺の木々。
蝉の声がうるさく響くいてくる部屋の中で、男二人で滴り落ちる汗に辟易している。そんな夏の最中の土曜日の午前中。

「暑い〜〜〜〜〜〜〜死ぬ〜〜〜っ」
畳の上にランニングシャツとパンツ一丁で、部屋いっぱいに大の字になられて転がられても涼しさがやってくるどころか、逆に暑くなるばかりで。
鬱陶しいっ!!と怒鳴ろうとしたところで、話し掛けられて怒鳴る気も失せる。
「休みなのに何で俺等は、こんな暑い中にいなきゃ何ねーの?」
「だ〜か〜ら〜さっさとどっかへ行けってずっと言ってるだろうが!」
「や〜だ。」
子供のように頬を膨らまして抗議されても、ただただ疲れるばかりで。
「しょうがないだろう。修理の人が来るまでは。それよりも、せめて服を着てくれ・・・。」
数日前から調子の悪くなっていたエアコンが、先日とうとうお亡くなりになった。
その頃は何とか我慢も出来たし、動かなくなったかと言う単純な感想だった。それ程の暑さでもなかった事が、一番の原因だろう。
次の日にでも修理の予約を入れれば良かったんだろうが、自分自身もあれやこれやと動いている内にそんな事は忘却の彼方。
確か神田にも連絡を取って貰うように言った気もするが、すっかり確認する事も忘れ果てていた。
神田に暑苦しさの余りエアコンを動かしてくれと懇願され、やっと気付く体たらく。
慌てて修理の確認をする頃には、夏は本番。
修理の業者迄もがエアコンの設置におわれ、何とか“今日の午前中には行きます”との有り難い確認の電話も頂いたが、修理の人が来るまでは逆に部屋を空ける訳にも行かず。
神田に向かって一人で出掛けて来い!と言えば、責任を感じているのか動く気配もない。
かといって自分一人が出掛けるのも今更憚られる。
結局、休みの日に男二人で部屋の中で茹だっているしか術は無い。

 首に巻いたタオルで顔の汗を拭きつつも、文句を言ってる神田を後目に冷蔵庫からこの日用に買って置いたスイカを取り出す。
「あっズルイ自分だけ!」
別に一人で食べる訳でもないだろうと思いながら、六切りを更に6つに切ってテーブルに運ぶ。
喜んで齧り付くかと思いきや。
勢い良く起き上がった神田は何故か冷凍庫を開けたまま一旦制止。
そのまま見ていると、洗面所の辺りと台所をうろつき、バケツとタライに氷を放り込んで、水を入れるとそれを持って帰ってきた。
「ほれ、簡易冷却装置。」
結局暑さに負け、神田の提案に乗って俺は窓の縁に腰掛け、神田は持って来た椅子に腰掛けて、二人して交互にバケツとタライに足を突っ込み、スイカに口を付けたその途端。
「お前等、何やってんだ?」
もの凄く知った顔が、少しでも風を送ろうとして開けておいた全開のドアの外に困惑顔のまま立ちつくしていた。
「よお、伊達。」
神田は一向に気にするふうも無く、スイカに齧り付いたまま、残った片手で伊達を部屋に誘う。
「暑さに耐えられるなら、入ってくれば?」
そう言った俺の顔と二人の足下を見て、何かは分からないけれどそのまま部屋に上がり込むのは、まずいと判断したらしい。
「何でドア開けっ放しなんだ?」
そのままの位置で神田と押し問答になる。
「閉めると暑いから。」
「だから、何で開いてるんだって聞いてるんだよ。」
「風、通す為。」
質問に対して微妙にずれた答えを聞いている事が馬鹿らしくなって、ドアに近寄る。
「クーラーが壊れてんだよ。」
「で、もしかして修理待ってんのか?」
「なんで知ってるんだ?」
と言って見れば、伊達が左の親指でくいっと指し示したそこに。
各種の工具を持ったいかにも修理屋然とした人がアパートの階段を見上げているのに気が付いた。
「ここだ、ここだ。」
伊達が声を掛けると修理の場所を見つけた安堵感からか、階段を素早く上がって来た。

 数十分後。
俺達は3人揃って河川敷に座り込んでいた。
修理屋の人が言うには、部品の一部が壊れていたので交換しなきゃならない事、ちょうど部品を持っているので今日中には直るけれど、時間が1時間余り掛かる事を告げられた。
修理箇所を確認している間、3人揃って玄関口でたむろっているのに懲りて、避難措置として近くの河川敷に逃げ出す事にしたのだ。
幾らなんでも、あの部屋に男4人がクーラーも無い状態で座り込むのは問題がある。
かと言ってやることがある訳でも無いので、ぼんやりと足下の草野球なんぞ眺めつつ草っぱらの斜面に座り込んでいるしかない訳で・・・。
「で、何でこんな所に来てんだよ。愛しの三星ちゃんと奥さん残して。」
神田が伊達に煙草をねだりながら聞いている。
「ちげーよ。
 何でも、直子が昔世話になった人がこの辺に住んでてな、三星を見せに行くんだって言い出してさ。付いて行って挨拶して済んだら、用が無い訳よ俺ゃ。」
「近くだったんで、ウチに逃亡してきた訳か?」
ついでにと、聞いている俺の方にも煙草を差し出してくる。
有り難く受け取ると、伊達の煙草から火を貰った。
「いや、無闇に歩いてたら、見知った場所に出たんでついでにと思ってみたら・・・ドアが開いてるしさ。」
「いる以外無いわな。」
「ドア全開の泥棒ってのも、考えにくいしな。」
「覗いてみたら、お前等二人して妙な格好してるし。」
三人でひとしきり笑った後、伊達が立ち上がる。
「どうした?」
「馬鹿たれ、お前等に後1時間も付き合ってられる訳ねーだろ。ぼちぼち戻らんと直子にどやされる。」
そりゃまぁそうかと納得してると、首に引っ掛けたままだったタオルを急に引っぺがされた。
「ふ〜〜〜ん。」
しげしげと見られる事に居心地悪さを感じていたら、突然前を神田に立ち塞がれる。
“お前等、一体何?”
と口に出して言う前に、神田の
「しっしっ!!」
と言う伊達を追い払う声が(勿論振り付きだ)被さる。
その神田の行動にめげる事も無く、伊達が俺の目にきっちり視線を合わせておもむろに口を開く、
「栗原。お前のラフな格好ってのを初めて見たけど割と似合ってるぜ。」
「うるせーなー、夏は綿シャツで冬はどてらか半纏が日本人なんだよ。」
俺が喋る前に全部神田がかっ攫っていく。
「こいつの影響だろ?」
そう言って顎で神田を示す。
「暑苦しいから止めろ止めろと傍で喚かれりゃ、着る物も徐々に変わるわな。」
笑って返すと、気が済んだのかやっと歩き出した。
神田と暮らすまでは衿を詰めたタイプの服ばかり着ていたのかと、やっと思い出す。
ぼんやり自身の思考に浸っていたら、不意に用が済んだはずの男から声を掛けられる。
それももう随分離れているのにだ。
「おい、栗原っ!そこの粗忽な男に言っとけ!
 相方に綿シャツ着さすならそれなりに考えろ!ってな。」
何を・・・言ってる?と考えて、目の端に逃げ出そうとしている神田を見つける。
「動くな!」
取り敢えずその一言で神田の動きを止めて置いて、顔を見て見ると思いっ切りバツが悪そうな顔をしているので、原因がこいつにある事だけは知れた。
その神田の視線の先を読んで、やっと合点がいった。
「・・・タオル貸せ。」
さっき俺が伊達に取られたタオルをきっちり奪い返していた神田から更に奪う。
今更という気もするが、無いよりはマシ。
どーせ帰ったら鏡の中に神田の付けた跡を確認する事になるんだろうから、今は考える事を止める事にする。
伊達に貰った煙草が終わるのを待つ時間だけは・・・。


< END >

 百合絵の「“クーラーが壊れた”とかさぁ」から産まれた迷品(汗)。
7月って思い付きにくいんじゃ!!海の日はあるけど、野郎二人で海って痛い・・・痛すぎる・・・(元々二人で行こうと思い付いた時点で詰まる事は分かり切っている・苦)。微妙に(どこがだ?)不健全。
どーしてもオチを目指してしまう自分が問題(汗)。絡ました男が悪かったと言う事で!!
2003.07.29

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