【夏祭り】


 
 夏も盛りの頃に、毎年やって来るのが美和子も楽しみにしている『夏祭り』。
去年と一昨年はまだ美香が小さかったし、ちょうど連休中の里帰りの状態だったので百里近辺にもいなかった為、出掛けられなかったのだけれど。
今年は美香も歩けるようになったし、いつの間にやら美和子が浴衣の生地まで買い込んで来ていて。
美香と揃いの浴衣を作ったと言う事を聞いては、その日が益々楽しみになる状況で。
その事を嬉しそうに喋った場所が百里だった為、気が付けば・・・。
今年の『夏祭り』を百里のメンバーも込みの大所帯で出掛ける事になっていた。

 日が沈んでもうだいぶん経つと思うのに、人の流れは途切れず、来る人と帰る人が様々に道に溢れている。
祭りを目指す人は少し足早に、帰りの人は夜店で買ったであろうヨーヨーや金魚を手に持ち、僅かにある明かりの下を皆楽しそうに歩いていく。
美和子と美香は紺地に赤い金魚の付いた浴衣をお揃いで着て、もうそれだけで嬉しいのか、いつもと違う雰囲気に興奮しているのか、抱え上げていてもちっともじっとしていない。
 横道から表の道へと角を一つ曲がると一気に明るくなった。
目指す所からは華やかな祭囃子が聞こえてくるし、待ち合わせをした神社の表門迄はまだ距離があるけれど、でも既に夜店は立ち並んでいると言う状態で。
見るとは無しに色々な商品に視線を送りながら、美香はもう『綿飴』ぐらいなら食べられるだろか?等と考えながらそぞろ歩いていると、自分達よりも2・3m先を歩いている神田さんと栗原さんを見つけた。
神田さんが時間よりも随分余裕を持って動いているなんて珍しいとは思いつつ、近寄っていって声を掛けると
「よおっ、水沢っ!」
嬉しそうに神田さんが左腕を挙げて答える・・・?
「た・助かった、水沢。」
振り返った栗原さんに、少々疲れ混じりで嬉しそうに言われた。
よく見てみると、その左手は栗原さんの右手と仲良く繋がれている状態で・・・。
「な・何やってんですか?二人して。」
思いっ切り繋がれた手に驚きの余り、視線を外す事も出来ずに凝視していると
「仲良しだから。」
言った神田さんの頭を殴るのかという勢いで、栗原さんが思いっ切り繋いだ手を手前に引いている。
見事バランスを崩した神田さんは、栗原さんに睨まれておとなしくなった。
「この男と来たら目的地にもまだ着いてないって言うのに、ここまで来るだけでも食い物屋には立ち止まろうとするわ、ゲーム屋には入りたがるわ。
 余りの切りの無さに無理矢理引っ張って来たんだけど、ここまで来るだけで・・・俺は疲れた。」
それだけを溜息のように言ってしまうと本当に疲れているのか、栗原さんは口を噤んでしまった。
「要は・・・即席の手錠みたいなモンなんすね。」
「だぁってよぉ、その為に早めに出て来てんだから、『焼きとうもろこし』とか『たこ焼き』とか喰いたがって当然じゃん、祭りだもんなぁ!」
同意を求めるように顔を向けてくるが、そう言った神田さんの右手には既に『いか焼き』が握られていて・・・ここまで連れて来た栗原さんの苦労が忍ばれる気がした。
「お前の場合は切りが無いんだよ!」
「神田さん、もう表門まですぐですから皆さんに会われてから、買いに走ったらどうですか?でしたら、栗原さんも止めませんでしょ。」
神田さんと栗原さんのいる場所まで急いだ僕の後ろから、ゆっくりと歩いて追い付いてきた美和子が言った台詞に反応して、一気に走っていくかと思えば。
何故か美和子に抱かれている美香を認め、神田さんなんて美香を一気に抱え上げてしまった。
「おー、水沢んちの娘だー。金魚の浴衣が可愛いねー。」
「あー、でっかくなってるなー。」
二人の興味が美香へと集中して、ぷにぷにと頬をつついたりしている。
美香はと言えばちょうど人見知りも一段落した状態で、少しびくびくながらも抱かれていたけれど、神田さんに脇を持たれて振り回されるに到ってはきゃっきゃと声を出して笑っている始末で。
本当に神田さんは子供にもてる。
そう思って見ていると、以前栗原さんが言っていた台詞もセットで思い出した。
「動物だから。」
思わず吹き出しそうになる笑いを堪えていると、自分以外のところでも話は始まっていたらしく。
「へーこれが噂の浴衣なんだ。上手いもんだね。」
栗原さんが美香の着ている浴衣と美和子の着ている浴衣を見て告げた事で、僕が百里で手作り浴衣の事を言って回っている事がバレたらしく。
美和子がきょとんとした顔をして、少し僕を咎める様に見るとぽっと頬を赤らめたのが分かった。
「おーい、水沢ーって・・・神田まで一緒か。」
何だかんだと言いながら、参道から多少はずれた場所を歩いていたが、歩いている内に表門の辺りまで近付いていたらしい。
気付けば、逆に司令に見つけられていた。
更に表門の柱に凭れるようにして待っていたのだろう司令の奥さんと娘さんの鷹子さんの姿も見える。
「ご苦労様です。」
「こんばんわ、水沢さん。」
「こんばんわ、司令。奥様。鷹子さん。」
「あ、こんばんわ。
 わーい、鷹子ちゃんまで浴衣だー。やっぱり女の子は浴衣がいろっぺー。」
「こんばんわ、鷹子ちゃん。似合ってるね。」
「ありがと、栗原さん。」
一気にみんなが挨拶をする中で、神田さんと栗原さんだけは鷹子さんと喋り始め。
司令が何気なく聞き耳を立てているので、将来自分もこんなになるんだろうかと想像したら。
笑ってばかりもいられない複雑な心境になってしまった。
「さ、全員揃った所で参拝してくるか。」
「え?西川さんは?」
「娘さんが興奮しすぎて寝ちまったそうで、今日はキャンセルだそうだ。」
「はー、そうなんですか。」
「何でぇ、西川ちゃんいないのか。」
「何か土産にでもして、明日百里に持って行ってやるか?」
ゾロゾロと続いて石段を上がりながら、銘々が思いつきを口にしていたら。
もう後1ヶ所で拝殿という石段で、登っている途中の階段から急に人が鮨詰め状態になって、身動きが取れなくなってきたので、何事が起こったんだと訝しがっているうちに。
前方でドンッと言う腹に響くような音が聞こえてきた。
「「あ?」」
面食らった神田さんと栗原さんがこの祭りを一番馴染んでいるであろう僕の方に一斉に振り返って目で説明を求めてくるが、噸と思い当たる事がない。
しかし次の瞬間、その説明は頭上高く咲いた大きな水色花火によって不必要になる。
「はーこりゃ、混んでるはずだ。」
「ほーいつの間にこの神社は花火なんて打ち上げ始めたんだ?」
「2年前まではやってませんでした・・・。」
ぽかんとして上空を見上げたまま固まっていたら、余りの音に驚いたのか美香が大泣きを始めた。
人波を掻き分けて、今来た道を逆に走る。
何とか人陰が疎らな場所に辿り着くと落ち着いてきたのか、美和子にしがみついたまま眠り始めた。
「おーすげー心臓だぞ、美香ちゃん。」
いまだ景気よく上がる花火の音を気にすることなく、すやすやと眠り始める美香の顔を覗き込んでいると、
「子供なんてそんなものですよ。」
そう言って司令の奥さんが助け船を出す。
近くに見つけた椅子に女性陣を座らせ、その周りを囲むようにしてしばらく花火を見物していたが、夜露は体に毒だろうとのみんなの進言もあって、美香を抱え一足先に帰る事にした。
「じゃあ、皆さんお先に。」
「ええ、帰り着くまで頑張ってね。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
口々に別れを告げ、背後に花火の音を聞きつつ帰っていたら、後ろから聞き慣れた声が飛び込んでくる。
「途中まで持ってやるよー、水沢ー。」
そう言って美香を抱えられる。
「神田さん、花火良いんですか?」
「んー綺麗だけどな、腹の足しになんないモンずーっと見てるのもつれーんだわ。」
「でも、神田さん帰る訳じゃないんですし・・・。」
「いーのいーの、水沢にあったぐらいの場所有るじゃん。
 あの地点より前の場所に陣取ってた『たこ焼き屋』が一番個数が入ってて値段一緒で、見た中で一番旨そうだったから、買いに行こうと思って。」
そう言って歩いている神田さんは既に単独で、みんなの場所に帰り着くまでどれだけ時間を喰うんだろうと思いつつ。
「じゃ、会ったとこら辺の場所までお願いします。」
「おお、OK、OK。」
軽々と美香を抱え上げ、飄々と歩いていく。
「神田さんって本当に子供好きですよね。」
「もーなんかな、いると弄りたくなるんだわ。」
「良いお父さんになりそうですよね、神田さんって。」
「あーダメダメ、一緒になって遊んじまうから。」
そんな他愛もないやりとりをしながら歩いて行っていると、来た道の曲がり角を見つけて、立ち止まる。
神田さんもそれに合わせて止まり、美香を渡される。
「これ、司令の奥さんからな。」
よく見ると美香の背中には大きめのハンドタオルが美香の身体を巻くように貼り付けられていて。
「冷えると体調崩すからだってさ。」
断る事も憚られるので、有り難く頂戴してしまう事にする。
「じゃーまた明日なー。」
笑って手を振る神田さんに見送られていつもよりも早仕舞いの『夏祭り』を後にする。
帰り道をずいぶん行った頃に美和子がぽつりと呟いた。
「神田さんも栗原さんもお相手はいないのかしら?」
「ん〜何て言うのか。もうあの二人は別格って感じだしねぇ。」
「そうね、やっぱり『縁』って有るものね。」
そう言ってにっこりと笑って、見上げてきた美和子が可愛かったので、片手に美香を抱えたまま夜道に紛れて手を繋いで帰った。
「結局、お参り忘れちゃったわね。」
「まぁ、またそれは今度でも良いさ。今日は特別だったから。」
花火の打ち上がる音を遠くに聞きながら、結構良い日だったと隣の美和子に笑いかけた。


< END >

 多分書きたかったのは、手を繋いでる二人(全然甘くねーけど・汗)、1歳児に戯れてる二人、ラヴラヴな水沢夫婦。
滑り込みセーフ?もう、寝る(愚)。いつも寝てる時間に更新して吐きそうだ(涙)。
ここまでしてる私って何?
2003.08.31

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