【9月9日】


休みの日の朝っぱら、新聞に付いていただろう折り込みチラシを見ながら突然神田が話しかけてきた。
「9月9日って何の日だ。」
「『重陽の節句』だろ。何、栗ご飯の催促か?」
「え、『重陽』って何?」
「菊の節句だよ、奇数月の重なる日にはお祝い日が入ってるだろ。」
「ふ〜ん。」
「3月3日は。」
「“お雛祭り”。」
「5月5日は。」
「おお、“こどもの日”。で、7月7日が“七夕”な訳か。」
「そうそう。」
「へ〜〜っ。」
「それで聞いて来たんじゃないのか。」
不思議に思って聞き返してみれば・・・妙に口籠もる。
即、喰い下がっても口を割らないどころか、益々頑なになることが分かっているので、そのまま他愛ない話を続けてやる。
「菊の節句なんだけど、暦が旧暦から新暦に替わった時に季節が合わなくなって直接の祝いって感じは無くなってるけど、寺で菊人形とか作ってるのが名残だろ。」
「あ・・・菊か・・・。」
「何なんだよ、さっきから。」
神田が持ってるチラシを素早く取り上げると、子供の向けのカレンダーなのか、『きょうは何の日』と可愛く書いてある。
どうも、学習塾か何かのチラシらしい。
五月蠅く聞いていた9月9日の日付を見て・・・絶句した。
『菊の節句』と言うのは分かるにしても、その後に書かれていたモノに目眩がした『男色の日・世界占いの日・福祉デー・温泉の日・救急の日』・・・子供向けのカレンダーにこれはないだろう。
『救急の日』は分かるし、『温泉の日』も別に良い。
でも、書くか?子供向けのカレンダーに『男色の日』って・・・。
畳にチラシを置いたまま、呆然と見ていると神田がそのチラシをふわりと取り上げて、他のチラシに重ねて仕舞う。
「ビックリするだろ。子供向けのチラシに『男色の日』はねーよな。」
「まあな、でも日本って昔になれば、なるほど『男色』って物に偏見がないんだよ。だからそれを実直に伝えようとした教師がいたって事じゃないの?」
ま、書いて有るモノはもうしょうがないって気持ちで認めてしまう。
多分何かがあるとすれば、子供に質問されて、ビックリした母親からクレームが入るぐらいで、来年は無くなっているか?等と考えを巡らしていると。
・・・何を考えたか神田がいつの間にか隣に躙り寄ってきて。
畳に置いてあった左手に右手を重ねて来た。
「何?」
「男色。」
「は?」
「こーゆーのもそうじゃねえの?」
「これで?」
思わず重ねてきていた手を空いている手で、掴み上げてしまう。
「好きな男に下心ありで近寄って行くのって、そう言わない?」
は?と声もなく、口が開く。
その隙を狙うように、掴まれた俺の手の裏側を指で器用に逆撫でられて、一気に顔に血が上った。
「ば・馬鹿っ!朝っぱらから発情すんな!」
「だって、昨日し損ねたし。」
慌てて振り解こうとしたら、その力を利用されて一気に押さえ込まれ身動きが出来なくなる。
「喰ってすぐ寝こけたのは、他ならぬお前だろうが!!」
抑え付けられている事に腹を立てて、言い放った台詞だったのに。
神田ににや〜と心底嬉しそうに笑われて、思わず腰が引ける。
「・・・寝なかったら、しても良かったんだ。」
「日本語の理解力って言葉知ってるか?」
「知らな〜い。」
「今は朝だぞ。」
「朝だから良いんだろ、明日は一緒に飛ぼうなー。」
そう言いながら、人の身体に懐きまくって、好きに弄り回ってくれる・・・。
せめてもの仕返しにと鼻を捻ってやったけれど、それで懲りる旦那じゃなかった。

「で、栗ご飯ってのも何なの?」
きっちり、朝から頂かれてしまい、自己嫌悪と戦っている所に神田が声を掛けてきた。
「いや、何かで読んだことがあったんだけど、収穫祭も兼ねてるからその日に『栗ご飯』炊くって。」
つい、質問されると答えてしまう我が身が恨めしい。
「え、共喰い?」
言われた台詞に反応して即、眉間に縦皺が寄ったのが分かったらしく旦那の軽口が止まる。
「それで?」
にっこり笑って言ってやると、更に追い詰められたらしく、そのまま凍り付いた。
「じゃ、今日は神田は俺の荷物持ちと言うことで。」
言ってやった台詞に、ひたすらこくこくと頷いている。
 その休みの日は神田と言う荷物持ちを得て、買い溜めして置く気だった米やら醤油やら重い物ばかりを選んで買ってやり、気楽な気分で家に帰ったけれど。

 風呂上がりふとカレンダーに目をやって、十日の日が見事に地上勤務になっている事実に気付いて、当日になったら本当に喰われそうな嫌な感じだったので。
帰りに飲み屋にでも寄って酒飲ませて酔い潰す事に決めた、その日の晩だった。
< END >


 何か勢いって凄いよね (苦笑)。
ひぐっち貴女のリクエスト?これって(爆)。貴女帰って来たら、私壊れてる?
2003.9.7up(12追加、変更)。







【ホントウ】


 
どちらかが始めたか分からない言葉遊び。
神田は風呂掃除をしながら、こっちはと言えば食事の支度をしながら。
「ファントムに乗って飛び回るのは好き。本当か嘘か?」
「本当。」
「実は言ってなかったけど、背広飲み屋で落としてきた。本当か嘘か?」
「本当!!」
「ブーーーーっ。見つけた西川が持って追ってきてくれましたー。」
「そう言う手を使うか!
 じゃ、水沢は結婚記念日にダイヤの指輪を贈った。本当か嘘か?」
「えーマジマジ?」
「本当か嘘かだ。」
「じゃ、本当。」
「ブーーーーっ。」
「なんでぇ。」
「ダイヤじゃなくって、誕生石だか何だかの指輪だとよ。」
「ほーーーっ、やるね旦那。何で知ってんのそんな情報。」
「相談されたからな、ラヴラヴだからだとよ。」
バタンと風呂場のドアが閉まったと思ったら、ドアに放水。
バシャバシャという水音だけが鳴り響く。
手元でくつくつとと煮えている鍋の仕上がり具合を確認して火を止める。煮物は火を止めてからの方が味が染みる。
「なぁ。」
いつの間にか風呂場のドアから顔を出した神田が、こちらに声を掛ける。
「何だ?」
水に濡れた手でおいでおいでをされ不振に感じながら近付く。
「栗原宏美は神田鉄雄が好き。本当か嘘か?」
耳元に口を近付けて、こしょこしょと囁いてくる。
馬鹿か?と、思いつつもこう言うところが可愛いちゃ可愛い。
「どっちが良い?」
「本当か嘘かだろ。」
「じゃ、本当。」
言った途端に濡れ鼠の旦那に抱きつかれて、唇を塞がれる。
シャツと短パンで掃除していた癖にその身体全体が濡れているのは何の冗談だ?と言ってやりたいが、一向に離れる気配さえない。
甘えられる場所をどちらもが見つけたと思っていたら極上。
口には出さないホントウのキモチ。

< END >

 『天然異端』sama提出物。
1ヶ月経ったので、じぶんちにも上げてみました。思い付いた時すげーベタだ(汗)と思ったもんですが、書いてみると面白かった。
提出して一ヶ月後の感想は、自分でもやんなるぐらい甘甘だ・・・と(汗)。
2003.8.31

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