【綺麗】


 
 何気なく聞いた台詞が耳に残ったのは、それが栗原に関しての事だったから・・・。
「栗原2尉って、男美人だな!」
「なんだよそれ?」
「あのグラサンの下、すっげぇ綺麗なんだぜ知ってたか?」
小腹が空いたので、栗原の止めるのも聞かずに食事に入ったPXで喰うもん喰って人心地付いた所で、背後から聞こえてきた話がそれだった。
当然の事だけど、話している奴らには俺の存在は気付かれてはおらず、食後にコーヒーを頼むのも止めて、思わずその話に聞き耳を立てた。
「あー聞いた事あるよ。基地祭で女装したとかだろ。ぶっちぎりで1位取ったてよ。」
「え?そんなのあんのかよ?写真とか残って無いのかなぁ。」
「資料室漁ったら出てくんじゃないのか?」
「い、今から行こうぜ!」
「何の許可貰って開けんだ・・・。」
話し声が止まったと思ったら、頭上から耳慣れた声が振って来た。
「神さん、判。」
テーブルに投げ出されたのは、きっちりとバインダーに挟まれた、フライトプランの束だった。
「ああ、はい。」
「何?変な顔して?」
「え、いやいや。」
顔の前で手を2・3度振って見る。
「こっち、コーヒー頂戴。」
「あ、俺も。」
気付いたら背後に居たはずの二人は居なくなっていた。
後ろをしきりに気にしている俺に不審そうに栗原が聞いてくる。
「何?」
「後ろの席、誰が居た?」
「?・・・あんまよく見てなかったから、知らん。」
「あそ。」
そのまま、二人して黙って運ばれて来たコーヒーを啜った。

「なー西川ちゃ〜ん、栗原って綺麗か?」
 スクランブル待ちのアラートで栗が居なくなった事を良い事に聞いて見ることにした。
「は?何おっしゃって・・・ん〜〜〜まぁ綺麗か綺麗じゃ無いかって観点でいけば綺麗でしょうねぇ。」
「そうか・・・。」
最初は本当に何を聞くのだ?と思ったらしいが、俺の真剣な顔を見てきちんと答えてくれる。
「一体、何を聞き込んで来たんです?」
「いや・・・この前なPXでオヤツ食ってたら、栗の事を『綺麗』とか『男美人』とか言ってる奴が居たんだよ。」
「はぁ。それでですか。」
オヤツねぇと苦笑いを浮かべながら、俺からは出てこない言葉だとわかっているんだろう。しきりに頷いていた。
その西川が思い付きに閃いた顔をして俺に逆に聞いてきた。
「で、神田さんは栗原さんをどう思ってた訳ですか?」
きちんと答えてもらった事には、こちらもきちんと返す。
「キツくって、情け容赦がなくって、鬼のようなフライトプラン組んで俺ヘロヘロにして、ちょっとした冗談にマジに殴りかかって来るんだぞ。コエーの何の・・・。」
「あ・・の・・・神・・・。」
「でもたまにすんごく可愛いけどな。」
「言いたい事はそれだけか?」
目の前で俺の背後を指差すべきか、どうすべきか迷って指を真上に指し示してる西川も、青褪めている水沢にも気にせず、喋りまくってしまった自分がバカだったことは不機嫌を滲ませた重低音に肩を叩かれるというか、力の限り、握り込まれたと言うか・・・。
「く・・・栗原さん?ご・・・ご機嫌麗しゅう・・・。」
首がギギギと軋みそうな気分で、振り返った顔には予想外の笑顔。
けれどその目は全く笑っていなかった。
 その不気味な沈黙を無理やりにでも、押し遣ってくれたのも西川だった。
「よ、要は神田さんは栗原さんの美醜については頓着してないって話ですよ。」
「へぁ?」
栗原が心底間抜けな声を出した。

 結局、俺はそのまま存在を放置され、西川と栗が延々喋って結論に達したらしい。
「ま、じゃあ神さんは俺の色香に迷わなかった数少ない人間って事で。」
「良いんですか〜そんな事言い切って。」
水沢もいつの間にか混ざってきて、結局4人で机を囲んでいた。
「この顔には苦労させられてるから、いいだろ。言い切っても。コレで母親に似てなかったら日々腹立って、捨てたくなってるよ。」
「告白類にはゲンナリですか?」
そう言う西川も、水沢なんぞ両手叩いて受けて、笑っている。
「この時期になったら頭に花咲いたバカがいっぱいでゲンナリだ!!」
拳を固めて力説する栗原を見て、とうとう西川ちゃんなど噴出すように笑い出した。
「何だ?それ。」
「鈍いって幸せですね。」
「お前に言われたか無いぞ、・・・水沢。」
「酷いっ神田さん!!」
「まぁまぁ、この時期になったら転属者が出てくるんですよ。で、秘めたる思いを玉砕覚悟で告白してくる輩が増えるんですよ。」
「へ〜〜〜〜〜っ。」
西川の説明に素直に頷く。
「本気で気付いてなかったんですか!?」
水沢の素っ頓狂な声が耳に入ったけど、無視した。
何気なく、すぐ傍にあった栗原のサングラスを外して見た。
「おい・・・。」
文句を付けたのは栗原だけで、その他のメンバーは成り行きを見守っているらしく無言だった。
じ〜〜〜〜〜と栗原の顔を見て、数分。
「・・・・・・やっぱ、わからん・・・・。」
諦めたように溜息混じりに言った俺の言葉で皆の力が抜けたらしい。
「野生動物ですからね、神田さんは。」
「何だよ・・・。」
「視覚的な事は度外視して、能力主義なのかも知れないですね。」
「ふ・・・ん、ならまぁ良いか。
 でもな〜〜〜なんか気に喰わないんだよな〜〜〜。」
そう言って、腕を組んでいると思ったらいきなり首に腕を掛けて来た。
「な、ここ痕付けれるか?」
「へ?」
何を思ったか西川ちゃんや水沢の前で服を引っ張って首筋を晒した。
「「「は?」」」
全員の疑問が重なる。
「キスマークだよ、キスマーク!!」
「いや、それはちょっと・・・。」
思わず、両手を顔の前で振る俺を哀れそうに見る西川と何が起こるのかとワクワクしている水沢の目に晒されて、拒否権はもはや無いに等しい。
「一人で楽な目見れると思うなよ。たまには相棒として俺の苦労を思い知れ!!」
「なんでそんな事っ!」 
「ほ〜〜〜〜、情け容赦なくって、鬼のようで、喧嘩っ早いんだってなぁ、俺は!」
いますぐ殴られた方が数倍マシな気もするが、こうなると嫌も応も無い。
「しなきゃなんない?」
「良いぜ〜〜〜。べっつに。西川ちゃんでも水沢でも、神田が付けたって言うだけだし〜〜〜〜。」
言われた二人が必死になって否定を込めて首を振っているのが見えるが、言い出した栗が引かない事は嫌って程知っている。
「やりゃあ、良いんだろ、やりゃあ!!」
「そうそう。」

 そうして・・・。
言葉通り、散々栗原をこき下ろした罪は、我が身でもって償う事になったのだ。
栗原に振られた男に物凄い目で睨まれるのは兎も角、仕舞いにゃ数人に囲まれて殴られそうになったり、一人に呼び出されたと思ったらいきなり平手を喰らわせられたり、散々だった。
 呼び出される度に、その騒ぎの内容を逐一聞いて、ゲラゲラ笑ってご満悦な栗原とひたすらフォローに回ってくれた西川と水沢が呆れ果てるまで・・・このキスマークの騒動は続いたのだった。
誰だよ、こんなのを綺麗とか言ってた奴は!!
表面ばっかり見てると痛い目見るぞ〜〜〜!!やっぱ中身だろ、男も女も!!と、隣りの張本人に言う訳にもいかず一人悶々とするしかない俺なのだった。

< END >


 この前振り書いた事あったんじゃなかろうか?記憶混乱(汗)。自分も調子悪くなってきてるんだろうか・・・(苦)。
子供が二日連ちゃんで学校&園を休みましてね、ええ。その時間を利用しての暴走でした。5.76Kもあるなんて・・・何なんだろう、一体(汗)。1・2巻あたりの根性悪そう〜〜〜〜な栗ちゃんが好きなのかも、私。
この二人は出来てるのか?出来てないのか???書いてて分からなかったよ。白々い事をぼやきつつ、オワル(実はマジでどっちか決めてないんだわ・笑)。
でも、全員出てるし・・・と言う事は後と言うことか・・・まぁ、良いさ〜〜〜うちはサザエさんさ〜〜〜。
2005.01.28

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