【夏休みの宿題】


何でこんな事になったのか・・・。
二人で顔を見合わせて、笑うしかない状況と言うのは、正しくこれの事を指すのかも知れない。

夏も終わりに近付いた休日。
朝っぱらから近所の子供達に引き摺られるように出て行った神田を見送って、家の中のことを片付けようと動き回っていると何故か、出て行ったはずの神田が子供を何人も連れて帰って来たのが窓越しに見えた。
不思議に思って成り行きを見ていると、どうも子供達の勢いに神田が負けているようで・・・。
良く見れば、一人に背中を押され、二人に腕を引っ張られている?
5人もの子供をワラワラと纏わり付かせたままの状態で、徐々にアパートに近付いてくるのは何の冗談だろうか?
なんとなく嫌な予感がしたが、そんな時に限って視線は外れなくなるモノ、そして見事にかち合ってしまうモノなのだ・・・。
あの野郎、俺の顔を見た瞬間あからさまにほっとしやがった。
「栗〜〜〜〜っ。」
その挙句、手を振りながらわざわざ窓の下の植え込みに回り込んで来て、窓際に近付くと虫取りのプラスティックケースに水を入れた物を差し上げられた。
「?」
「これなんだか知ってるか?」
「見えるか、バカッ!」
行っておくが俺たちの部屋がある階は2階だ・・・1階から持ち上げられた手の平より、多少でかいサイズの水槽の中身が見える訳が無い。
「降りてこねぇ?」
「・・・何に巻き込む気だ?」
二人のやり取りに不安になったのであろう、後から追って来た子供達が声を張り上げた。
「神田のにいちゃんはこれはメダカじゃないって言うんだ。
 でも、俺達はちっちゃい魚だし、池で見つけたからメダカだと思うんだ。」
「近所のおっちゃんとかに聞いてもわかんないって言われて、困ってるんだ。」
・・・・・・神田は兎も角として、必死の子供を無下にする程、俺も鬼じゃない。
「取り敢えず、皆上がって来い。」
溜息混じりにそう言う事以外、他に俺の出来た事ってあるのか?

 子供達の途切れ途切れのバラバラの説明を纏めるとどうやら学校で出た『夏休みの宿題』をこの5人かでやろうという話になって、この子達が選んだ題材がメダカだった訳だ。
ところがメダカは数が少なくなっている事、別の良く似た魚が居ると言う事までは聞いていたが、肝心のその魚もメダカも見た事が無い自分達には判断がつかない。
そして捕った魚を確認して貰おうと神田を連れて行ったが、結局メダカかどうかは判断が付かなかったというオチだ。
神田に言わせると、昔見たのとなんか違う気がする・・・と言うどうしようもなく曖昧な答えに子供達も神田本人も途方に暮れて、ココに来たらしい。
「だからと言って・・・、俺がメダカかどうかなんて判断出来る訳ないだろうが!!」
神田にだけ向かって言うと、肩を落としつつ時計を確認すると子供達を見回して、なるべく優しく言ってやった。
「後30分もしたら、図書館が開くから各自、図書館の貸し出しカードもってここに戻って来い。」
・・・子供に罪は無いからな。
小学校の生徒が市立図書館の貸し出しカードを持っているのは知っていた。
元々は幼稚園の頃に移動図書館用に作っている事を、移動車に乗せる本を大量に選んで、運んでいた職員から聞いた事があったのだ。
「何を調べたら良いのかもわかんないから、ついでに資料も持って来る事。」

 そしてそれから2時間後。
確かにそれはメダカじゃなかった。
野性の直感、侮りがたし・・・。
カダヤシと言うぼうふら退治に輸入された魚だった。
最初はメダカじゃないと言う事にショックを受けていた子供達だったが(また捜しに行かなきゃ、と網を悲壮な顔をして掴んだ子もいたぐらいだ)、メダカじゃなかった!と言う事実を書けばどうだ?と勧めてやると全員がそちらに傾いた。
けれど、調べて行くとこのカダヤシという魚は、肝心のぼうふらを食べず主食はメダカとその稚魚らしい事もわかったので、皆を驚かせた。
発表するならはったりも肝心だと、いつの間にかトリノコ用紙を抱えて帰って来ていた神田に勧められ、今日の知った内容をその大きな紙に書かせる事にした。
5人は嬉々として作業に勤しみ、夕方までにはマーカーと色鉛筆などを使って、綺麗に色づけして飾ることも出来た。
「ありがとうございましたっっ。」
5人から並んで深々と礼をされて、ちょっと退いたが笑って見送ってやった。

 にこにこ顔で帰って行く子供の顔を見ながら、神田がボソリと呟いた。
「『夏休みの宿題』な、俺いっつも最終日まで掛かってやってたわ。」
「はぁ?」
「何とかなるかな〜〜〜で夏休みが済む頃になって、焦ってやるわけよ。
 毎年、毎年、全く懲りずにさ。」
「何でだよ?あんな物、夏休みが始まった途端にやり始めたら、8月のお盆が来る前には完璧に終わるもんだろ?」
「うわっ、ヤな男。」
お前な・・・と言いたい所は堪えたが、逆に変な場所で声が出た。
「・・・と言うことは・・・あの子供達は完璧に神田に汚染されてた訳だ・・・可哀想に。」
「ほっとけよ!!」
「まぁ、お前の不始末の始末が何とか付いてよかったな。
 新学期が始まっても遊んで貰え。」
そんな掛け合いをしながら、終わった土曜日の翌、日曜日の朝。
インターホンを鳴らされ、ドアを開けて見ると昨日見た子供+α。
世の中の子供達は、ほとんどが神田の幼い頃と一緒なんだと、奇妙に納得する。
人数が増えた子供達は手に手にやり掛けの宿題を持って来ていた。
二人分あるアパートの部屋を振り分ける、ワークや物を書くのが俺の部屋で。工作や実験をするのが神田の方の部屋。
後、目立った事と言えば・・・買出しに行ったジュース類が瞬く間に無くなった事実ぐらいで・・・。
けれど、流石に一日が終わった頃には二人して疲れ果てて、肩を落とした。
「疲労と言うよりも子供のパワーに押された気がする・・・。」
神田がぼやいた台詞に頭を縦に振る事しかしたくない。
疲れたと身体の節々を鳴らしながら、二人とも畳にしばらく転がっていた。

そして、揺ぎ無い事実がココに一つ。
来年も確実に子供達はやってくるだろう事。
「なぁ、来年もこれか?」
「・・・だろうな。」
「8月末に宿題持ってる奴は、遊んでやらんと伝えとけ!!宿題片付けんのなら7月だ、7月!!」
「言っとくよ・・・。」
叶えられようが、叶えられまいが構わないが、来年の騒ぎが少しでも収まってくれる事を祈るしかない俺達だった。

< END >

 『夏休みの宿題』に振り回される母が書いたのは、『夏休みの宿題』をやって頂けるお二方って事で(苦笑)。
こんな人達が身近に欲しいよ〜〜〜〜!!マジで今から残った宿題やるんですぜ・・・。そうココに書かれてる神田こそが何十年前の私って事で!!(嬉しくね〜〜〜・涙)。
2004.8.31up。

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