【可愛いあの子】


 
 珍しく神田から呼び出しが掛かった。
その日も懲りもせず、飲みに出ていた状況だったので最近、直子に持たされている携帯を切るとその足で指定されていた店に向かった。
「よぉ。」
ドアベルが鳴る中、見つけた顔に向かって手を上げた。
俺の顔を確認した神田が半ばほっとした顔をしながら、同じように手を上げ返してくる。
「どうした一体?珍しいな。」
神田が無言のまま右手をクイッと曲げて親指で指し示した先を見てみると、なんとそこには多分酔いつぶれて寝てるだろう栗原が・・・いた。
「どうした?」
「お前知ってる?こいつのオヤジさん。」
「ああ、なんとなくな・・・。」
「そー言う、事。」
苦笑いを浮かべたような神田を見ながら、スツールに腰掛けるとすんなりとダブルで入れられた水割りが出てくる。
「相棒に酔いつぶれられて寂しくなったのか?」
「あんまり早々に潰れられたんでそのまま帰るのもなんだから、一応連絡入れて見た。」
「ま、金曜の夜だしな。歓迎しましょう。」
大きく両手を広げてまるで飛び込んで来いと言わんばかりのポーズで笑ってやると、神田も持ってたグラスを乾杯状態で掲げてみせる。
どちらとも無くニヤリと口元に笑いを刷いて、素直にカウンターに向き直る。
「自分こそどうした、相方は?」
「物好きにも土曜の朝っぱらから自家用機で飛ぼうっておっさんが居てな・・・会社に名指しで連れて行かれた。」
「ああ〜、あの事件以来売れっ子だもんな。高田ちゃん。」
俺の副パイは、俺を置いて飛んだ時に危機的状況に陥った癖に、あっさりとそれをいなして帰還したもんだったから、仕事場での人気は急上昇。
女の子達に騒がれるのはまだ良いが、大の大人が腕が確かと言う所に目を付け、それから妙な仕事までが名指しで入るようになって、副パイを取られたパイロットは一人地上で管を巻くしかない始末だった。
「ま、その内治まるさ。」
「あいつもそう言ってた。」
二人で顔を見直すと、後は力なく笑っているしか仕方が無い。
グラスを傾けながら、他愛ない話をしているだけで結構時間は過ぎるもので・・・そろそろ終電の時間に近付いて来ている。
そんな時間だった。
何気なく腕時計に目を走らせると、急に神田が何かを思いついたようにニヤッと口元だけで笑う。
その気配に何事が起こるのかと、視線を追っていると、突然酔いつぶれている筈の栗原を揺り起こしに掛かった。
「なぁ、栗、伊達が一緒に飲もうって来てるぞ。」
勢いよく、揺する様は意識がはっきりしていたら、逆に酔いそうな激しさだった。
「・・・ん・・・んんっ〜〜。」
語尾が上がってきているので、徐々に意識を取り戻しそうだと言う事は分かる。
「だて・・・?伊達がなんで?・・・。」
「よぉ、お目覚めか?」
「んん〜〜?、ん〜〜〜〜・・・やっぱ寝る。」
手を上げた俺を目視したと思ったら、すぐさまカウンターに付けた腕の中に頭を落してしまった。
「な〜〜〜んでぇ。」
不思議そうな俺を置いて、ブツブツと文句を言ってる神田に何をしたかったかが聞きたくて、肩を叩いて尋ねる。
「・・・何なんだ?」
「栗ってさ案外人見知りで、崩れたところ他人に見せないんだよ。
 前に酔って寝てた時にジョーイに見つかった事があってさ。即、起きて居住まい正したから伊達ではどうなるかなって思ったんだけどさ・・・。」
ブチブチと文句を垂れる神田は多少拗ねているようで。
「おまえなぁ、一応短期間とは言えこいつと組んでた男よ、俺は。」
「分かってるけどさぁ。」
「眉間に皺寄ってるぞ。要は自分にだけ甘えて欲しい訳だな。」
ズバリと言ってやると頬を赤らめて視線を外された。
こういう仕草がこの男は可愛いんだが、全く自覚が無いようで・・・。
「オイ、本当に起こさないと終電、間に合わなくなるぞ。」
「ああ、そうか。」
そう言いながら、こっちが誘ったからと支払いを済ませに行った神田を見送って、栗原を起こしに掛かる。
「オイ、栗原!終電無くなるぞ。」
ペチペチと頬を叩くとゆっくりと覚醒してくる。
「ん・・・伊達・・・か、さんきゅ。」
「いえ、いえ。」
スツールから立たせると、そのまま肩を貸してやって神田の前まで連れて行く。
「ほれっ。じゃ、また連絡くれよ、遊んでやっから。」
そのまま三人で店の外に出て、神田がしっかりと栗原の身体を支えているのを確認してから、おもむろに栗原と神田の両方をまとめて抱き締めると、その両方の頬に音が出るようなキスしてやった。
「だ、伊達っ手前ぇ!!」
「伊達っ!!」
どちらもが悲鳴のような声を上げたが、そんなもんは気にしない。
目を点にしている二人を置いて、反撃が来る前に、即座にその場所から逃げを打つ。
「栗原の目が覚めただろ〜〜〜。またな〜〜。」
怒っているのか、喚いているのかの二人を置いて、さっさと家に帰るべく自分の乗る地下鉄を目指した。
「このぐらいの役得あっても良いよな。」
呟くと唇に手を当てた。
大きく伸びを一つすると、深夜まで開いているファンシーショップに入り、小さなオルゴールを三星の土産にと買い求めた。
あのまま置いてきたあの二人が喧嘩したのか、嘆きあったのかを今度聞いてみようと思いながら、鼻歌交じりのご機嫌で愛する直子と三星の居る家に向かう俺だった。


< END >

 春日あきら様。カウントNO.680リクエスト『酔いつぶれた栗』&『伊達』で。
こんな感じで〜〜〜お題クリアにして頂けるでしょうか?(笑)。
タイトル凄くてごめんなさい・・・一度思いつくと、このインパクトが凄くて、他に思いつけませんでした。
ウチの伊達は栗も好きなんだが、神田も好きなんで・・・こんな感じになってしまいました・・・多分きっと、あきらさんの考えていた方向とは微妙にズレてる自信があります!!(言い切っちまう辺り、終わってる・汗)。
でも、こんなので宜しくです・・・これ以上は脳味噌回りませんので(焦)。
2004.10.05

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