【痕】


 
「今回は何やったんですか・・・神田さん。」
ロッカーに普通に入り、着替えようとした所を西川に溜息付きで迎えられた。
「へ?」
「どーせ気付いてないんでしょうが、首回り凄い事になってますよ・・・。」
俺の方に視線を向ける事が禁忌のように西川はロッカーの扉に隠れるようにして話している。
そう言われて初めて俺は自身の胸元に手を当てた。
・・・昨日、珍しくも二人揃って買い出しで出掛けたは良いが。
帰り掛けに栗と暮らす前にいつも俺が行っていた喫茶店に久しぶりだからと栗を誘ったのが間違いの始まりだった。
栗原と行動をする事も珍しかったし、歩き疲れていたのと、懐かしさもあってドアを押した俺がつくづくバカだった。

 栗原と暮らす事になって、何度目かの荷物の整理をしにきた時にいつも朝飯を食っていたこの場所にも、一応挨拶をと思い。
そこにいた馴染みの店主のオヤジに色々からかわれ。
調子に乗って、在り得ない事と栗原を年上の女に見立てて、朝飯は必ず作ってくれるし〜、掃除も洗濯もお任せで・・・と散々ノロケてその店を後にした事実をコロッと忘れ切っていたのだ。 そこの当の店主に話しを振られる迄・・・。

 まさか、その時は自分の同居した男が本当に恋人の位置に来るなんて事は全く考えられず。
好き勝手な内容を喋った挙句、今現在、ノロケたその内容のほとんどを本当にやって貰っている事実が痛過ぎた(手伝わされてもいるが、人間得意不得意という物があるんだ!!と俺は声を大にして叫びたい)。
それでもその辺の家事関係の話で終わってくれたらよかったのに、その当時の俺は何を考えたか夜の事まで喋っていたらしい。
すっかり忘れ切っていたんだが・・・。
それまでは笑って済ましていた栗原も徐々に笑いも凍りつき、仕舞いにはどれだけの話しをしたか聞き出しに掛かった。
そうなってくると引き攣ってくるのは俺の方で・・・。
いくらそれが出来上がる前の事だと言ったとしても、ここまで事実と重なっていれば許されるはずも無く(最悪な事に嘘偽りで言ったハズの言葉がほとんど合っていた)。
そのまま何とか新しい客が来て俺達から視線が外れたのを良い事に、店を脱出したものの栗原から吹き荒れるブリザードに声を掛ける事も出来ずにアパートに帰ったのが真相だった。
その上、帰ってからは散々凄まれ、何とか同居直前に言った大嘘だった事は納得してもらったけれど、その実、腹の虫は治まってなかったらしくその夜散々言葉で苛められた上に、搾り取られたのが真相だ。
何とか同居直前に言った大嘘だった事は納得してもらったけれど、その実、腹の虫は治まってなかったらしくその夜散々言葉で苛められた上に、搾り取られたのが真相だ。
思わず、西川ちゃんの言った意味を考えて溜息が漏れる。
見て確認なんぞしなくても自分の中で充分心当たりがある。
今まで気付きもしなかった自分が悪いのだ。
さっさと着替えの新しいシャツに手を通すと、俺としては珍しくきっちりと一番上までボタンを留めた。
「で・・・いつから気付いてたのかな?西川ちゃんは。」
「何となくですかね・・・。何となくあれっ?と何度か思う事があって、今回が決定打って感じでしたね。
 まさか本当にそうとはねぇ。」
クククと潜めた笑い声が聞こえて来て、やっと今自分が何をされたか気付いた。
「カマ掛けたのか?西川ちゃん!!」
思わず、ロッカーに向かっていた俺の方も西川ちゃんの方に向き直る。
「・・・いや〜〜〜。」
照れ笑いを浮かべた顔に見返されて、それ以上言う言葉も見つからず。
「人がわりぃーぞ。」
脱力して座り込みたくなる膝をなんとか支えている。
そんな俺がなんとか言えた精一杯の台詞だったけれど、その後に切り返されてきた台詞で完膚なきまでにお手上げ状態になった。
「お二人の仕込みがいいモンで。」
そう切り替えされてしまっては、ぐうの音も出ない。
「ま、この事は御内密に。」
「勿論ですとも。」
にっこり笑ってロッカーを後にされた。

 西川ちゃんにバレた事が栗にバレたら今度はどうなるんだろうと思いつつ、先の事を思い悩むタイプでは無い事を良い事に、この一件は俺の中で都合良く無かった事にした。
バレた時はバレた時だと開き直る。
何となく前にもこんな事があったようなと言う既視感を感じながら・・・。

< END >

 某所「裏板」に置いてありました。
「裏板」なのに、十分表でいけますと言われた作品(無頼様がね〜・笑)。私もそう思いますが・・・だってその頃エロ指数が異様に低下してて、何書いても全然さっぱりだった。
反動なのか、最近洒落になりませんが(ヲイ)。
1ヶ月越えたら集めてくる気になったのも良い事でしょう!きっと。当然の如く、1月はこれからだ〜〜〜〜!(笑)。
2005.01.11







【スイカ】


 
珍しく涼みを兼ねてやって来た大型スーパーで、何か軽くつまむものでも買うかと足を向けた食料品売り場。
果物のコーナーで栗原が首をひねる。
「神田ー、スイカいるか?」
さっきまで隣りにいたハズの姿を探すと、ちゃっかりとお惣菜のコーナーの試食の場所に足止めされ、揚げたてのトンカツにソースを付けて貰っていた。
声に反応したのか、そのまま食べながら歩いてくる。
「いきなり消えんなよ。恥ずかしいだろ。」
責める台詞も右から左。
「八つ切りと六つ切りどっちが良い?」
「ん〜〜〜これ買おう。」
質問に返って来たのは、指差しで・・・。
その先には網に入った丸いスイカがゴロゴロある訳で。
「神田・・・幾らなんでもこれは二人では無理だろ。」
「男二人でこーんな事してる休日の方が寂しいだろ。
 これ持って出掛けようぜ。」
「どこへ?」
「鷹子ちゃんち〜。」
「いきなり行って、いるのかよ。」
「今日はいるんだって。聞いてるも〜ん。」
その為にアパートから離れて、司令の家の近くのスーパーなんかに来てた訳だな。
「懐いちゃって、まぁ。」
「へっへっへー。鷹子ちゃんは、いい女だからなっ。
 でも、なんかな・・・まぁいいや。美味いメシを食わせてくれる場所が多いのはいい事だ。」
「独身者の悲哀か?」
「栗のメシも美味いぞ。」
「お前に個人的にモノ喰わした覚えは・・・。」
「ラーメン喰った。」
「あんなインスタントは誰にでも出来る。」
「俺には出来ない!!」
力んで、拳を握り締められてもコメントに困る。
「言い切るなよ・・・。」
どっと脱力しながら、言い渡す。
こいつの生活能力はどうなっているのだろうと思いつつ、その辺りを掘り下げるのが恐ろしいので、聞かなかった振りをしようとしている内に、勝手に盛り上がった神田が隣りで気炎を上げている。
「じゃ、タダ飯喰いにGO−!」
「スイカ一個じゃ申し訳無いかも知れないな・・・。」
押し掛ける場所には連絡を入れたので、肩透かしは無いけれど、これからどれだけ喰う気なのか・・・の神田の反応が怖い。
「?」
ため息をつかんばかりの俺に気付いたらしく、振り返って覗き込んで来られる。
「幸せそうでいいなって言ったんだよ。」
「おぅ!栗もいるし、幸せだぞ。」
満面の笑みで答える男に何も言えなくなる。
この男と知り合ったことが幸か不幸か・・・それがはっきり分かるまで一緒にいるのも悪くないと思う、昼前の夏の日だった。

< END >


 取り落としてました。何と言うか・・・順番に並べていても溢す事はあるようで・・・(苦)。
どうすべきか・・・面倒だけど直しましょうか(汗)。
出来上がるどころか会って間もないな、こやつら・・・等と思いつつ。
私の中の設定が変わっているので少々直しましたがそのぐらいです。
2004.07.18

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送